ブータンに魅せられて
著 者:今枝由郎
出版社:岩波書店
ISBN13:978-4004311201

ブータンに魅せられて

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

田邉澄子 / 京都市立京北第一小学校図書館,元東京都立三鷹中等教育学校
週刊読書人2019年11月22日号(3316号)


 あるファンタジーを読んでいる最中,しきりに頭に浮かんだのが本書だった。それは本書2章の「目にみえるもの,見えないもの」の不思議な話が,ファンタジーの見えないが在る世界と重なりそして通い合うものがあると思ったからだ。
 本書は,チベット仏教研究者である著者の,難関の末のブータン入国から,国立図書館顧問としての10年余りの日々を描いたものだ。ブータン人の日常を描く中で,その穏やかさ,謙虚さ,豊かさに触れ,驚き,やがて多くの示唆を発見していく様が本書の大きな魅力となっている。
 中でも仏教徒ブータン人には見えるが著者には見えない物がある事実と,狐につままれたような昔話の世界が現存する場面は,驚きに満ちている。そして高僧ロポン・ペマラとの出会いからの,数々のエピソードが圧巻だ。ロポンがアメリカを旅行中に突然車を降り読経を始める。一群の亡霊が見えたと言うのである。後に,そこはアメリカ・インディアン大虐殺のあった場所とわかる。
 国立図書館長でもあるロポンは予算は無駄使いしないと人件費のみを使い,職員は資格のない人を採用する。その理由は「高学歴で有能な人は給料も高く,どこでも働ける。(中略)働きたくてもほかで働けない人を採用している」(p.81~82)と。どんな図書館か気になるでしょう? 書籍とは経典で,1980年代当時は法事に使うお経のレンタルが主な業務とのこと。その他,通産省ではブータンの余っている「時間」を輸出しようと話し合ったとか…。ここにはGDPやGNPの思惑はない。あるのは祈りを日常の主とする小さき人々の思い(想像力)であり,ユーモアそのものである。
 翻って,図書館の仕事はこの祈りにも似た目には見えない小さな思いの積み重ねではないかと思う。本書で改めて,人間性を支えるべくある想像力を,見失うことがあってはならないと思った。

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