社会をつくる「物語」の力 学者と作家の創造的対話
著 者:木村草太
出版社:光文社
ISBN13:978-4334043391

社会をつくる「物語」の力

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

吉井聡子 / 川崎市立中原図書館, 日本図書館協会認定司書 第 1141号
週刊読書人2019年11月29日号(3317号)


 SF作家と憲法学者による,タイトルに「物語の力」という本書。帯には「想像力が現実を動かす」とあり,そのどれもがミスマッチな所から興味を惹かれる。SF作家新城氏と憲法学者木村氏の対談で全編構成されている。
 タイトルに「物語」を冠しているので,「物語論」が展開されていくかと思いきや,第1部「法律は物語から生まれる」の中では,対談内容はトランプ現象について,法学の基本とは…等が語られている。現在世界で起こっているトランプ現象や法律学考察が多岐にわたり続き,タイトルにある「物語」は,どこで触れられていくのか?というと,第1部の最終で「ゲームという模擬社会」が語られ,90年代初頭,新城カズマ氏が主催していたRPGゲーム『蓬莱学園』の話となる。
 90年代初頭のRPGブームとその運営についての解説は本書に譲り,その中で新城氏が「その時代,インターネットが無くてよかったことは,思考に時間をかけられたこと。」と繰り返し語っているのが印象的であった。
 第2部「社会の構想力」から,主軸となるのはトールキン『指輪物語』である。『指輪物語』はハッピーエンドなのかそれとも…と,登場人物たちの立場を語っていながら,話は「『指輪物語』はリベラルデモクラシーか?」といったテーマにまた発展する。そしてこの推察を現在のトランプ現象の考察へ続けている。まさしく縦横無尽である。
 第3部で「SFが人類を救う?」では,また対談は広がりをみせ「AIから民主主義まで」等と話が進んでいく。そして終章は『指輪物語』とケストナーで締めくくる。対談形式のこともあるが「むき出しの知的好奇心の塊」に触れた思いがした。