鷗外の恋 舞姫エリスの真実
著 者:六草いちか
出版社:講談社
ISBN13:978-4062167581

鷗外の恋

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

村上恵子 / 横浜市保土ケ谷図書館
週刊読書人2019年12月6日号(3318号)


 森鷗外の『舞姫』といえば教科書などでもおなじみ,いわずと知れた有名な文学作品だ。主人公の不甲斐なさ,ヒロインの悲劇が印象に残っているが,この物語は鷗外自身の経験がモデルとなっているといわれている。鷗外のベルリン留学帰国直後,現地での恋人の来日について家族や友人の手記などに記されており,また1981年にはそれらしき人物が日本へ来航・出航した記録のある当時発行の新聞が発見されている。
 ではその恋人とはどんな人であるか。文学論的研究など多数の論文類が発表されているが,これらの中でも本書は,恋人と思われる女性の身元について資料に裏打ちされた説得力のある調査として発表当時話題になった。ここで真偽について云々するつもりはないが,とても興味深かったのがその調査過程だ。著者は現地在住ということを生かして,1860年代から1960年代に至るベルリンの住民帳や新聞,教会公文書,古文書,戸籍簿などの原資料を,根気強く綿密に調査している。ベルリンを東奔西走して,読みにくいアルファベットの髭文字や流麗な筆記体を解読し,時には所蔵館指定の資料閲覧時間に間に合わず,時には記録が見つからず落胆したり。そんな時は当時の状況を想像して別のところを調べてみたり,調査過程で知り合った専門家に助言をしてもらったりして,新しい糸口を見つけて調査を進めていく。キーワードを入れて一括検索というわけにはいかず,スキャン画像のマイクロフィッシュを1枚1枚めくる調査の大変さは,レファレンスで同様の経験をした方なら「お疲れさま!」といいたくなるのでは。
 続編『それからのエリス いま明らかになる鷗外「舞姫」の面影』(2013)でもさらに調査を進めていてこちらもおすすめしたい。ベルリン帰国後,20世紀前半の激動のドイツを生きた彼女の人生は,『舞姫』のヒロインとは異なる印象だ。


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