絶滅鳥ドードーを追い求めた男 〔空飛ぶ侯爵、蜂須賀正氏 1903-53〕
著 者:村上紀史郎
出版社:藤原書店
ISBN13:978-4865780819

絶滅鳥ドードーを追い求めた男

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

松崎萌 / 千葉県立中央図書館
週刊読書人2019年12月13日号(3319号)


 この本は,鳥類学者の蜂須賀正氏の生涯と功績について追いかけた伝記である。彼は戦時中としては珍しく,イギリスに留学し,北アフリカやフィリピンを探検,アメリカに滞在してドードー鳥の研究論文に着手するなど,日本に留まらない研究活動を行った。しかし彼の日本での評価は,「困った若様」「スキャンダラスな侯爵」などという,放蕩華族の印象が強いものだったようだ。著者がこの本をまとめようとしたきっかけは,鳥類研究の関係者以外で蜂須賀氏の業績が知られていないと感じたからである。関連年譜や参考文献一覧,主要人名索引なども充実していて,蜂須賀氏の研究内容や行動のほか,当時の関係者や,時代背景なども丹念に調べることで,あまり言及されてこなかった蜂須賀氏の人物像を浮かび上がらせることに成功している。
 彼の日本での活動は,日本生物地理学会の創立,英仏語での学術雑誌への寄稿,戦後GHQの野鳥調査への協力などで,国内に世界の鳥類研究の様子を積極的に発信していたことがわかる。しかし日本では蜂須賀氏の評価は低かった。その理由について著者は,彼がコスモポリタン的な思想を持っていたからでは,という見方をしている。日本が諸外国との対立を深め,戦争へ向かっていく流れの中で,古い価値観に囚われず研究のため世界各国を飛び回る蜂須賀氏は日本社会の中では異端だった。戦時中にも海外へ出かけ,敵性語である英語で論文を出版したことなどからもそれがうかがえる。時代に逆らうという点では,新種の発見が主流だった鳥類研究で,過去に絶滅した鳥を研究したのも当時としては珍しかった。その研究から蜂須賀氏は,種の保存のための鳥獣保護という先進的な概念を戦後日本に啓蒙していくことになる。異端であることを恐れない彼の生き方に触れられる一冊である。