虹色のチョーク 働く幸せを実現した町工場の奇跡
著 者:小松成美
出版社:幻冬舎
ISBN13:978-4344979048

虹色のチョーク

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

池沢道子 / 神奈川県立平塚ろう学校図書館
週刊読書人2020年1月10日号(3321号)


 日本のチョークのシェア50%を占める日本理化学工業の取材をまとめた一冊。「ダストレスチョーク」とガラスなどに描き消しできる筆記具「キットパス」が主力商品だ。スポーツ・芸能関係の人物ルポルタージュ等を手掛けてきた著者が,『日本でいちばん大切にしたい会社』(坂本光司著 あさ出版 2008)やテレビ番組で取り上げられているこの会社を,工場,経営者,社員とその家族への取材を通じ,会社の歴史も振り返り紹介する。
 従業員の7割が知的障がい者。大山泰弘会長が社長のときに知的障がい者雇用をスタートさせたのは1960年。経営者は,障がい者が働くための工夫を次々展開していく。作業に必要な道具の改善,各自が設定する1年の目標,個人の特性に合った役割,「6S」活動,10年単位の勤続表彰…。
 「人は仕事をすることで,人の役に立ちます。褒められて,必要とされるからこそ,生きている喜びを感じることができる。(中略)彼らから,働く幸せ,人の役に立つ幸せを教えられたのです。」(p.14)と大山会長は言う。過去には障がい者雇用の取り組みに反発した息子の大山隆久社長も,今は同じ思いでその理念を引き継ぎ経営にあたっている。取材中の2016年7月,相模原殺傷事件が起きる。著者は,この会社に,共に生きるヒントを見いだし,繰り返し「働く幸せ」を伝える。
 褒めることで相手に対し感謝の気持ちを持つことができ,褒められることで自信と責任感が育ち,よい結果が出せる働きをする。できないから責めるより,褒めて褒められて互いに感謝の気持ちを表し認め合えたら,閉塞的な状況が少しはひらけて生きやすくなりそうに思った。
 館内ではチョークと並べて本を紹介してみた。キットパスも使ってみたいと思っている。
 写真は大西暢夫。写真掲載はそう多くはないが,工場で働く従業員の表情を温かくとらえている。