あやつられ文楽鑑賞
著 者:三浦しをん
出版社:ポプラ社
ISBN13:978-4575713831

あやつられ文楽鑑賞

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

金森陽子 / 大阪信愛学院図書館
週刊読書人2020年1月17日号(3322号)


 文楽は敷居の高い伝統芸能の一つで,積極的に観劇に行くのは余程好きな人だろうと推測する。私は小学校か中学校かの芸術鑑賞で見たときには文楽というものに違和感しかなかった。生身の人間で演じればいいものを,なぜに人形と義太夫と三味線で演じるのかと。それが大人になり自分の意思で舞台を見ると,なぜか違和感はどこかへ行ってしまった。私も“あやつられ”るように文楽鑑賞にはまりつつある一人だ。
 本書は楽屋取材やしをん流の作品解説で,文楽の魅力を伝えてくれる一冊だ。三味線の鶴澤燕二郎(六世燕三),人形遣いの桐竹勘十郎,義太夫の豊竹咲大夫への楽屋取材を通して芸や伝統,演者の日常や人柄などを垣間見ることができる。
 文楽作品は惚れた腫れたのドラマのような内容や時代物など,江戸時代から庶民が楽しむもの。何百年も前に創作されたのだから,登場人物たちの感覚や発想,行動が今とはまったく違う。それにツッコみつつ,堅苦しく見なくても自由に楽しめばいいというのが著者の語り口調でよくわかる。また,演目には歌舞伎や落語に共通するものもあり,今風にいうメディアミックス。当時の人たちが,文楽で大当たりしたから他の芸能でも取り入れようというノリ。そんな比較も興味深い。
 文楽の魅力について「大夫,三味線,人形が繰りだす芸と技。いきいきした登場人物と,壮大さと深みを備えたストーリー。たまにトンチンカンな言動や思考を見せる登場人物に,「そりゃあないだろ!」とツッコむ楽しさ。(中略)見るひとがそれぞれ,自分だけの楽しみかたを発見できる,間口の広さと奥深さ。それが文楽の魅力ではないだろうか。」(p.263)とある。まさしく舞台を見れば著者の言うとおりだと実感できる。
 文楽の道に邁進する若者たちを描いた同著者の『仏果を得ず』(双葉社 2007)も合わせて読むと,本物の舞台も見てみたくなること間違いない。