CRISPR 究極の遺伝子編集技術の発見
著 者:ジェニファー・ダウドナ、サミュエル・スターンバーグ
出版社:文藝春秋
ISBN13:978-4163907383

CRISPR

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

三村敦美 / 座間市立図書館, 日本図書館協会認定司書 第1080号
週刊読書人2020年1月17日号(3322号)


 本書は,画期的な遺伝子操作技術CRISPR-Cas9(クリスパー・キャス9)を発見したジェニファー・ダウドナ博士(カリフォルニア大学バークレー校教授)自身によって書かれた本である。
 一人称で語られる本書は,大きく二部構成になっている。まずCRISPR発見前史から発見に至る経過,論文を発表してから世界中の研究者によってもたらされるCRISPRを応用したさまざまな成果を目の当たりにしての高揚感,遺伝子が原因の病気への応用など,明るい未来が主に語られる。
 第二部は,CRISPRをさらに進めた研究,例えば,筋肉隆々のボクサー犬,犬ほどの大きさの豚,肉がたくさん取れる羊などが紹介される。これは,人間の遺伝子を塩基1個単位で「操作」「編集」できるようになったことを意味する。
 我々人間は,代々受け継がれてきた遺伝子に容易に「操作」や「編集」を行ってよいのか。それとも苦しんでいる人のために活用すべきなのか。第二部のもう一つの主題がこの悩ましい二面性である。CRISPRが医学を超えて,哲学や倫理学,社会学の問題を孕んでいることに博士は気が付いたのである。博士は,生殖細胞への応用について一定の歯止めを設けるようフォーラムを開催し,広くオープンな議論により誤った使い方がされないよう声明を出す。
 博士の心は苦悩しながらも,CRISPRのもつポジティブな面を活用できる世の中を信じて,前向きに進んでいる。
 決めるのはノーベル生理学・医学賞を受賞したニーレンバーグ博士の言うように「(前略)十分な情報を与えられた社会だけである」(p.240)。そういう意味では,我々一般人も否応なく決定を迫られるのである。図書館はそのようなとき,役に立つ存在でありたいと思う。