生物に学ぶイノベーション 進化38億年の超技術
著 者:赤池学
出版社:NHK出版
ISBN13:978-4140884409

生物に学ぶイノベーション

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

岸広至 / 飯能市立図書館
週刊読書人2020年1月31日号(3324号)


 38億年にわたる進化の中で,生物たちは生き延びるためそれぞれに技術を身につけている。
 生物模倣技術ならびに生物規範工学という学問は,人間が築き上げてきたのとは成り立ちの違う技術,生物たちの超技術を学ぶことで新たなイノベーションを起こすものである。この本では,この生物から着想を得たさまざまな研究・技術が紹介されている。
 「生物の形をまねる」,「生物の仕組みを利用する」,「生物がつくったものを活用する」,「生物そのものを扱う」,「生態系に寄り添う」という五つのカテゴリーで章立てがされている。この章立てにより,生物規範工学が,サメ肌水着やヘビの動きをヒントにした災害時用ロボットなどの形状・機能の模倣だけでなく,ガの生態的特徴から学んだ制がん剤や,シロアリやミドリムシから新たなエネルギーを生み出す研究へと広がり,最後には生態系にまで及ぶ分野であることがわかる。
 この生態系の話では「バイオスフィア2」という箱庭のような人工生態系計画の失敗にも触れている。その中では今後の科学技術が技術革新についてだけでなく,循環や共生といった自然がもともと持っている調和にも目を向ける必要があることまで書かれている。新たな技術への期待と近代科学への警鐘の双方が書かれていることが興味深い。また,実用段階に届いていない研究も紹介されており,人間の技術がまだ追いつかないこの分野の深さも感じられる。
 生物たちを見ることでこれまで気が付かなかった新しい技術につながる様子が書かれており,さまざまな問題に対する新たな着想も多数示されている。生物学分野に興味のない方にも,物事を解決する際に,見る角度を変えることや他の分野を知ることの重要性を確認させてくれる1冊である。