外国人労働者受け入れと日本語教育
著 者:田尻英三
出版社:ひつじ書房
ISBN13:978-4894768871

外国人労働者受け入れと日本語教育

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

村上由美子 / 田原市図書館
週刊読書人2020年2月28日号(3329号)


 私の家は道路に面していて,窓を開けていると道を行くひとびとの声が聞こえる。子どもや若者,年配の方,時々猫の声もする。聞こえる言葉も日本語だけではない。中国語やポルトガル語,どこの言葉かわからない言葉。もう何年も前からすっかり日常となっている。
 厚生労働省が公表している「外国人雇用状況」によると,2019年10月現在の在留外国人労働者数は1,658,804人である。この数は年々増加している(滞在者数は200万人を優に超える)。「外国人が増加している」という表現は「自然に増えてきている」ととらえてしまいかねないが,国の施策として日本で働く外国人を増加させていることに加えて,外国人受け入れ施策がダイナミックに進んでいることが本書を読むととてもよくわかる。施策が推進される一方,いろいろな問題も存在している。
 本書では特に日本語教育の施策が遅れをとっていることに焦点を当て,日本語教育関係の研究者など9名がさまざまな側面から提言を行っている。編者の田尻英三氏は「2014年の日本再興戦略以来,新たな外国人労働者の受け入れ施策が作られたが,相変わらず彼らに対する日本語教育は,ほとんど具体的な施策はないままである。」(p.iii)と書く。
 私は自分の住む市の国際交流協会の日本語教室ボランティアをしているが,いろいろな立場で働く多くの外国人にボランティアという立場で教えることの限界を感じている。この点について田尻氏は「その地域の行政機関が日本語ボランティアを支援する体制を国家レベルで作成すべき」(p.70)と提案している。
 2019年6月21日に「日本語教育の推進に関する法律」が議員立法により成立し,28日に公布・施行された。外国人労働者を「人材」としてだけではなく共に日本に住むひとびととして受け入れるには日本語教育の整備はもっとなされるべきだ。日本語教育関係者たちのそう望む声を本書は知らせてくれる。