ごみ収集という仕事 清掃車に乗って考えた地方自治
著 者:藤井誠一郎
出版社:コモンズ
ISBN13:978-4861871504

ごみ収集という仕事

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

遠藤桂花 / 大石田町立図書館(山形県)
週刊読書人2020年3月6日号(3330号)


 私たちは日々生活する中で,さまざまなごみを出し続けている。普段何気なくごみを集積所に出しているが,誰もが利用するサービスでありながら,ごみ収集の現場がどのようなものか詳しく知る人は少ないだろう。
 本書は,自治労の「次世代を担う研究者」に採用された著者が,なかなか表舞台には上がってこない清掃行政に注目し,特にごみ収集に焦点を当て,地方自治のあり方を問う一冊だ。「現場主義」を貫き,9か月間にわたり,新宿区内のごみ収集の現場に入った著者は,ごみ収集を中心に清掃指導や環境学習などを体験する。その中で,清掃職員は実に多様な業務を担い,危険と隣り合わせの過酷な収集現場を受け持つことを知る。また,清掃職員と共に働く中で,職員の信念や地域住民への配慮,職員同士の団結力といった細かな様子が語られる。スムーズに進む清掃業務の裏には,一朝一夕では身につかない清掃職員の技術があり,それは今や公共の財産となっている。
 民間委託の問題は,地方自治のあり方を考える本書の第二のテーマだ。収集の経験や住民への説明対応,そこから培われる専門知など,これまで潜在的に享受していた現業職員の人的恩恵をどのように維持していくかが大きく問われる。本来収集業務と清掃指導業務が密接に関係しあい,サービスが向上していくはずが,現在の委託化の仕組みでは,両者が分断され,サービスの質の低下を招きかねないと著者は危惧している。
 決して表には表れない“見えない”所での業務について,実際に現場に入りリアリティをもって報告した本書は,現場からの声を継続的に発信することが周囲の理解を生み,よき地方自治の担い手を育てることを身近な視点から教えてくれる。私たちも可視化や実態を伝え続ける努力を忘れずに業務にあたりたい。