「ういろう」にみる小田原 早雲公とともに城下町をつくった老舗
著 者:深野彰
出版社:新評論
ISBN13:978-4794810410

「ういろう」にみる小田原

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

高橋彰子 / NPO法人大きなおうち,元大磯町立図書館
週刊読書人2020年3月13日号(3331号)


 本書は小田原の老舗「ういろう」の歴史を軸に小田原の文化を描き出し,これからの小田原のまちづくりを考えていこうというものである。
 「ういろう」と聞いて何を思い浮かべるであろうか。歌舞伎,お菓子,でも小田原?とお思いの方も多いかもしれない。
 時代を遡ること室町時代。元王朝の高官であった陳延祐が明王朝への交代期に亡命,博多に居を構え,中国での役職名をとって「外郎(ういろう)」と名乗った。以来歌舞伎十八番「外郎売」で知られる薬の「ういろう」と,もともとは外郎家が客人をもてなすために作ったお菓子「ういろう」を扱ってきたのである。
 外郎家は大陸から博多へ渡り,その後室町幕府の招聘に応じ京へ,そして北条早雲に招かれ小田原へ移る。この歴史をたどると,その時代の大陸や各地の交易,文化,政策など,違った角度から歴史を楽しむことができる。
 また外郎家は,家業を継承していく上で,地域や文化とのつながりを大切にしている。優れた医薬と各地とのつながり,知識を生かし地域に貢献してきた。650年も続いてきた外郎家の秘密が,これからのまちづくり,文化の継承をどうしていくかという問題のヒントになるかもしれない。
 外郎武氏は今後のまちづくりとは「人をつなげる場,創造を培う場,それを世界に披露する場,これらの場づくりを市民が行っていくこと」(p.294)だと言う。地域の人々が集い縁を結んでいく中で,地域の伝統を守りつつ,新たな要素を加え次へ伝えていく。地域に根ざした図書館や,それをサポートする市民の活動にも通じるものではないだろうか。
 小田原のういろうから図書館にも思いを馳せられる1冊。「ういらうはいらつしやりませぬか。」(「外郎売」より)