清張鉄道1万3500キロ
著 者:赤塚隆二
出版社:文藝春秋
ISBN13:978-4163907239 発売日: 2017/11/10

清張鉄道1万3500キロ

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

仲明彦 / 京都府立洛北高等学校
週刊読書人2020年3月20日号(3332号)


 「登場人物の足跡を辿ってみたい」。松本清張以上に,この衝動を掻き立てる作家を私は知らない。そして登場人物のほとんどが鉄道に乗車する。
 「では一体,作中の鉄道乗車場面はどのくらいあるのか。誰がどこの路線に乗ったのか。それらの総計距離はどれくらいになるのだろうか」(「清張と鉄道」展図録,p.8)。清張ファンの誰もが抱くその疑問に取り組んだのが,本書の著者の赤塚隆二氏である。
 氏は清張作品中,登場人物たちが鉄道乗車する場面をことごとく拾い出し,そのうちから最初に登場した線区・駅間を抽出(本書では「初乗り」と呼ぶ)し,登場人物が乗った駅,降りた駅,その間のキロ数を一覧性のある表と地図にまとめた。そして「初乗り」が登場するのが100作品,総計距離が1万3551.8kmであることを示したのである。清張作品と鉄道との親和性は常に語られてきたが,このような網羅的な研究成果を示したのは氏が初めてだろう。本書は,その一覧表と地図を資料として掲載し,さらに登場作品を氏の独自の視点で時代区分し,鉄道乗車場面を中心に,作品発表順に解題したものである。
 本書の魅力は,資料的価値はもちろんのこと,秀逸な鉄道シーンの抜き取りと,それに付した氏の絶妙な一文。清張がそこに託した,日本の風景,社会の断面,懸命に生きる人々の姿が浮かび上がってくる。既読の書は再読,未読の書は一読へ,そして登場人物の足跡を辿る旅へと誘う格好の清張ブックガイド。ぜひ清張作品と一緒に棚に並べてほしい。
 氏のこの研究は,2015年に北九州市立松本清張記念館が主催する「第17回松本清張研究奨励事業」に入選し,2017年に同館が企画展「清張と鉄道-時代を見つめて 小倉発1万3500キロ」を開催したことも付記しておきたい。