私とは何か 「個人」から「分人」へ
著 者:平野啓一郎
出版社:講談社
ISBN13:978-4062881722

私とは何か

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

村上祐子 / 奈良育英中学校・高等学校
週刊読書人2020年4月10日号(3335号)


 我々は,いろんな人と共に生きている。自室を出れば家族,家を出ればご近所さん,電車に乗って,次は学校や職場…。それらの場所で,すべて同じ「顔」で過ごすわけがない。その場にふさわしい人物として,意識的に,無意識的に,その場の「自分」を振舞っている。
 本書は,そんなさまざまな「自分」を肯定し,生きやすくしてくれる。まず,所謂この「キャラ分け」に「分人」という名前が付いている。タイトルの造語である。その複数の「分人」の構成比率によって「自分」は決定しており,対人関係ごとに見せる複数の顔がすべて「本当の自分」である,と著者は言う。例えば愛することも,「その人といるときの自分の分人が好き」という状態 (p.136)であり,好きな人との「分人」は,やはり生きやすく心地よいものとなる。逆に,いけ好かない人とは嫌な「分人」が生じる。すべて自分との交渉によって生じたものであるから,己を省みる材料となる。自己分析に余念がない思春期にうってつけの本である。
 さらに,「分人化」は故人にも,本や画面の中の人物にも当てはまる。亡くなった親族との「分人」を大切に取っておけば,より故人とつながった感覚で遺影に語りかけられるし,影響を受けたあの登場人物からの鼓舞だと思うことで,その「分人」は新しい一歩を踏み出すことも可能だ。顔色を気にせざるを得ない,リアルな誰かに出しづらい「分人」は,二次元で解消可能。個人的には,神やAIとの「分人化」が今後非常に気になる。ともかく,所蔵冊数分の友人が期待できる図書館は一層心地よい場所になること間違いなしである。
 この本自体も,読んだ人の「分人」となり,その構成比率に影響を与えうるだろう。「分人」分析に加え,著者の過去執筆作とリンクさせて話は進むので,一作家の軌跡としても楽しめる本である。