「若者」をやめて、「大人」を始める 「成熟困難時代」をどう生
著 者:熊代亨
出版社:イースト・プレス
ISBN13:978-4781616384

「若者」をやめて、「大人」を始める

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

松倉彩実 / 八戸市立図書館
週刊読書人2020年4月17日号(3336号)


 「子ども」と「大人」,その違いはよくわかる。しかし,それが「若者」と「大人」となるとどうだろうか。年齢や言動,体格など「子ども」と「大人」の違いを明確にしえた指標では,一概に両者の違いは測りきれない。境界線もあいまいだ。なにが「若者」を「若者」たらしめ,なにが「大人」を「大人」たらしめるのか。そもそも「若者」には“やめる”必要が,「大人」には“はじめる”必然があるのだろうか。
 「『なんにでもなれる』感覚が『大人』を遠ざける」(p.63)と筆者は本著で語っている。「完成された何者か」になるべく,「若者」はあれでもない,これでもないと自己探求に野心を燃やし,「若者」の延長に励む。「気が付いたらもう“いい齢”」(帯)と自らの加齢を実感してもなお,揺るがないアイデンティティを確立させずして「大人」にはなれない,と「大人」になることへのハードルを自ら高く引き上げる。そして,さらなる成長を自身に期待し,「若者」を続投する。
 筆者はそんな「若者」をやめられない「“いい齢”の若者」の心理的背景に接近し,彼らが抱える困難に寄り添う。そして,「大人」という社会的存在が背負う,責任や使命の重たい面だけを意識する彼らにこう「大人」をプレゼンする。「『大人』になるのもそんなに悪いものじゃないし,これはこれで面白い境地ですよ」(p.8)。「大人」をひき受けなければ味わうことのできない幸福の可能性を示唆する提言の数々は力強く,優しい。
 筆者が「成熟困難時代」と呼ぶ現代にはさまざまな課題がある。「大人」の担い手の減少が一因となっている問題も少なくないだろう。自分自身について自覚的になるべく,一度まっさらな鏡を見つめてみることこそが,私には「大人」をはじめる一歩に思えてならない。