新・人は皆「自分だけは死なない」 と思っている
著 者:山村武彦
出版社:宝島社
ISBN13:978-4800238078

新・人は皆「自分だけは死なない」 と思っている

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

只石美由紀 / 日高町立門別図書館郷土資料館
週刊読書人2020年4月24日号(3337号)


 災害現場でいったい何があったのか。危機的状況に陥った人間はどのように考え行動するのか。防災アドバイザーの著者が世界中の災害現場でインタビューして気付いた「防災の死角」を,心理学の観点から実例を交えて解説する。
 皆さんの中には近年災害に見舞われた方もいらっしゃるだろう。私も2018年9月6日に北海道胆振東部地震を経験した。著者が第3章で明らかにする「地震に備えられない人々」の心理と行動は,地震の記憶が薄れていない今,実体験と相まって他人事とは思えない。
 人間には良い状況がずっと続くと思う心理的傾向がある。いつか大きな地震が来ると言われても,日常生活に支障をきたすような変化を本能的に望まないから,真剣に考えようとしない。心のどこかで「まだ先だろう」と思っている。
 災害の基本的な知識はあっても,いざという時に「ここは大丈夫だろう」と思い込んで避難しない。「周りの皆が逃げないから自分だけ逃げるのは」と集団に依存して逃げ遅れる。「過去にここまで水が来たことはない」と過去の事例にとらわれて,想定外の災害に対応できない。このような心理こそが防災の死角なのだ。
 感情や先入観の影響から逃れて合理的な判断をするには,自分を客観視し影響の存在を認識することが不可欠だ。目に見えない心の動きについて活字化されたものを読むことはその一助となるだろう。
 本書は2005年に発行された旧版に東日本大震災の情報を加えた改訂版である。特に著者が高く評価する釜石市での防災教育は,多くの子どもの命を津波から救った。この事例については釜石市の危機管理アドバイザー片田敏孝著『人が死なない防災』(集英社 2012)に詳しいので,併せて読むと防災心理についてより理解が深まるだろう。