太宰府幕末記 五卿と志士のものがたり
著 者:太宰府天満宮文化研究所
出版社: 西日本新聞社
ISBN13:978-4816709586

太宰府幕末記

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野見山義弘 / 大野城市立大野城心のふるさと館,元福岡県立高等学校司書
週刊読書人2020年5月15日号(3339号)


 「七卿の都落ち」という言葉は幕末・明治維新に興味を抱く者なら誰しもが知っているであろう。1863年に起きた政変で京都を追われ,長州に逃れた尊王攘夷派の七人の公家たちのことである。しかし,この七卿の内の五卿(一人は死亡,一人は逃亡したため,残された, 三条実美・三条西季知・東久世通禧・壬生基修・四条隆謌の五卿)が更に筑前に追われ,太宰府天満宮に身柄を預けられたことまで知っている者は少ないのではあるまいか。
 ところで,現在はお土産屋さんとなっている太宰府天満宮参道沿いの店々は,江戸時代は旅館街だったのである。そしてこの五卿を訪ねて,西郷隆盛,坂本龍馬,桂小五郎といった志士たちが寄り集い,倒幕のための緻密な戦略を練りに練ったのである。
 昨年明治維新150年を記念し,太宰府天満宮が,その所蔵する五卿や志士たちの書簡・肖像画等を展示公開し,その図録を兼ねた解説書として本書を刊行した。そもそも何故太宰府天満宮が五卿の落ち行く先として選ばれたのか。そこには筑前黒田藩内部の微妙な勢力争いが影を落としている。幕府の厳しい監視の下,いかに天満宮宮司や地域の人々は五卿に便宜を図り,もてなしたか。そして勤皇の志士たちは,どのように交流を深めて倒幕に起ち上がったか。これらのことを,第一章 延寿王院と大鳥居信全,第二章 五卿遷座前の太宰府,第三章 長州藩をめぐる福岡藩と薩摩藩の動き,第四章 太宰府での五卿,第五章 大政奉還の構成の下,彼らの手になる書簡文を読み解きながら探ってゆく。
 極めてローカル,郷土史的色彩が濃厚ではあるが,日本の歴史の一大転換点はどのように準備されていったのか,幕末史に興味のある人は,ぜひ一読願いたい「図録」である。