現代語訳墨夷応接録
著 者:林復斎
出版社:作品社
ISBN13:978-4861827174

現代語訳墨夷応接録

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

稲木美由紀 / 神奈川県立川崎図書館
週刊読書人2020年5月29日号(3341号)


 『墨夷応接録』は,幕末に取り交わされた「日米和親条約」と「下田追加条約」について,日本側の交渉役の林大学頭ら応接掛と米国全権委員のペリーとの間で行われた交渉の一部始終を記録したものである。そう聞くと,何だか難しい本に思えるかもしれない。確かに原文は,ほぼ漢字で書かれており,読むのは容易ではない。しかし,本書はタイトルにある通り,現代語に訳されており,思いの外面白く,小説のようにさらさらと読めてしまう。
 訳者も本書の中で述べているが,本書で注目すべきなのは,当時の日本の役人が,きちんとした交渉術を持ち合わせていたという点である。
 「初篇(日米和親条約篇)」では,薪水の提供を承知したものの,交易を拒む日本側に対し,ペリーは交易については無理強いしないと言いつつも,言葉巧みに要求を増やしていき,何かというと「江戸に行く」と脅す。応接掛の面々は冷静に対応していくが,過大な要求をそのまま押し切られてしまうのではないかと,ハラハラさせられる。
 しかし,箱舘での外国人の遊歩区域が主な争点となる「二篇(下田追加条約篇)」では,お互いに一歩も譲らない手に汗を握るような交渉が続く。この下田での交渉においては,港の様子を確認するだけで上陸はしないという約束を破り,箱舘に上陸した等の米国側の問題行動について,日本側が次々と釈明を求めていく。これによって,ペリーが困り果てる場面は,痛快である。その結果,下田追加条約は,ほぼ日本側の要求通りとなる。
 なお,本書に記録されているペリーとの交渉については,『ペリー提督日本遠征記 下』(角川ソフィア文庫 2014)にも米国側の視点での記録が残されているので,両方を読み比べることをお薦めしたい。