納豆,醤油,味噌のように日本に代表される食品だけでなく,パンやヨーグルト,キムチなど世界でも利用されている発酵技術。そして,私たちの体内にも乳酸菌などさまざまな微生物が数百種類存在している。この本は480ページを超える大作である。発酵食品を作るための料理本としても,世界の発酵食を知る研究書としても読むことができる。また,発酵の道を探求する冒険家のメモを読んでいるような,研究者の実験ノートを読んでいるようなワクワクした気分にもなることができる本である。
本の原題は「The Art of Fermentation」となっているが,(微生物・組織の)培養の英訳にはcultureもある。人類における特定の集団や時代の思想や文化,伝統と同じ単語だ。微生物と人類のcultureに共通しているのは,スターターをきっかけとして世代から世代へ引き継がれること,コミュニティを作りだすための重要なツールであるということである。そして,その歴史は安全に,効果的に,効率的に変化に適応してきた習慣をも指す。
まず,発酵の主なメリットとしての,保存・健康・省エネ・風味と分類し,章立てて説明している。それぞれの基本的な概念と必要な条件や機材はもちろん,こんなときは?というトラブルシューティングまで丁寧に書かれており,次に具体的になにとなにを組み合わせて発酵させるか,に進む。
微生物の変化する音や匂いを想像しながら,読み進めるうちに,だんだん発酵食品を作りたくなってくるだろう。それは,単純な食欲と好奇心に加えて,気持ちや愛情が表れる「手の味」(p.xiii)を知りたくなるためで,自分の手でものを作り上げたい「Maker」(p.480)が芽を出してきた証である。