自閉症は津軽弁を話さない
著 者:松本敏治
出版社:福村出版
ISBN13:978-4571420634

自閉症は津軽弁を話さない

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

梅木さやか / 京都府立清明高等学校図書館
週刊読書人2020年6月5日号(3342号)


 この本が書かれたきっかけは,青森在住の著者・松本氏が臨床発達心理士の妻に「自閉症の子どもって津軽弁しゃべんねっきゃ」(p.3)と言われたことだったそうだ。しかし松本氏は当初,その説を信じていなかった。だから,真実を確かめるというより否定するために調査を開始する。
 松本氏は自閉スペクトラム症(以下ASD)の方言使用についてまずは東北地方,ついで日本各地での調査を行う。そこで不使用の結果が強まると,さらに,ASDが方言を使用しないのはなぜか,ASDはどのように言語を獲得しているか,と考察していく。調査手法や結果の精査の過程などは専門的だが,語り口はやさしく,とても読みやすい。私自身が京都という方言をよく使う地域で日常的にASDと接していることもあり,ぐいぐいと引き込まれた。
 特に印象的だったのは,京都在住で家族が関西弁で会話する中,唯一共通語で話す子どもの事例だ。彼の事例からは,A SDは周囲との会話からことばを学べないが,テレビやビデオを繰り返し視聴することで語彙を増やせるということがわかる。その一助となっているのが字幕であるというのも,ASDの特徴を考えればうなずける。
 ASDの方言使用についてこれまで本格的に研究がされてこなかった理由について,関東圏では日常語が共通語で差が見えにくいこと,また診察といった公的な場面で話す際は方言使用者でも共通語で話すため意識されにくいということが指摘されている。しかし,ASDの言語獲得・使用についての研究は,ASDだけでなくそれ以外の人の言語獲得・使用を研究する上でも新たな視点を与えると思う。この本は「夫婦喧嘩の完敗」で幕を閉じているが,研究がこれからも広がっていくことを願っている。