タイムトラベル 「時間」の歴史を物語る
著 者:ジェイムズ・グリック
出版社:柏書房
ISBN13:978-4760149858

タイムトラベル

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

間片千春 / 富山県立図書館
週刊読書人2020年6月12日号(3343号)


 イギリスの小説家H・G・ウェルズが1895年に発表したSF小説『タイム・マシン』は,時間旅行ができる乗り物を導入した初期の作品である。
 作品が発表された19~20世紀は,ちょうど鉄道などの交通網が整い,ラジオや電話から他所の音が聞こえはじめ,アインシュタインが時間を含む世界を計測する理論を示した時代だ。単なる空想話にすぎないという意見の一方,主人公がもっともらしい科学的な説明を交えつつ乗り込み,未来へと時間移動するタイムマシンの存在は,地球規模で科学技術が発達した背景と相まって多くの読者を惹きつけた。そしてその後,タイムトラベルという概念は大衆に浸透していく。
 思いのままに過去や未来へ行けるという状況が注目を集めるのは,人々が常に時間の問題を抱えているからだろう。『タイム・マシン』よりもはるか昔から,時間を移動する物語は各地に存在した。日本でも,竜宮城から戻ると長い年月が経っていた『浦島太郎』の話がよく知られている。
 「では時間とは何であろうか。誰も私に問わなければ,私はそれを知っている。だが,誰か問う人がいて,その人に説明しようとした時には,私はそれを知らない」(p.18)アウグスティヌスがこのように書き残したのは,1600年以上も前である。当時よりも正確に針を刻む時計に囲まれて生きているはずなのに,誰もが納得する説明は21世紀になった今も見つからない。時間から自由になりたいと願う気持ちがタイムトラベルへの憧れ,そしてタイムマシンの不変な魅力と結びついている。
 図書館の蔵書なら,物理学の棚に並ぶであろう本であるが,天文学,数学などの科学全般,哲学,もちろんSF小説をはじめとする文学など,引用作品のジャンルは多岐にわたる。タイムマシンそのものは今も実現していないが,読書によるトラベルへの戸口は,本書のあちこちに散りばめられている。