ヒアリの生物学
著 者:東正剛
出版社:海游舎
ISBN13:978-4-905930-68-6

ヒアリの生物学

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

笹岡文雄 / 国士舘大学図書館・情報メディアセンター
週刊読書人2020年6月12日号(3343号)


 2017年,各地の港でヒアリが発見され連日新聞やTVニュースで取り上げられた。日本にはいなかった毒性の強い外来昆虫であるだけに,見つかるたびに連日報道されたのは当然だろう。
 同じように侵入定着した北米では年間100余人の死者が出ているというから,尋常ではない。
 しかし過去日本では,危険であるとはいえ在来種ではないヒアリに関する基本的な文献は,本書以外ほとんど出ていない。さらにこれほどまとまった内容の図書は,唯一ではないかと思われる。
 全9章立てでヒアリの分類学的位置,分布,生態,毒性,他国の状況などほぼ各分野の情報が網羅され,巻末には引用文献が付されている。
 本書の重要性はその情報量だけではなく,ヒアリが日本で確認される10年余も前,その危険性に対する警戒を呼びかけていることであろう。最終章で「日本への助言と提言」と記し,わざわざカバー裏表紙までに「『ヒアリ戦争』への備え」5項目を列挙していることからもわかる。
 グローバルな現代において日本だけがヒアリに限らずさまざまな生物の侵入から,例外であり続けることはないだろうと誰でも容易に想像がつく。
 しかし動物学の分野において研究者としての危機感が,これほど明示された図書を私は知らない。
 さらに本書は専門書である。決して一般向けに平易に記述されているわけではない。そしてヒアリが日本で確認される10年余も前,ヒアリなど研究者以外誰も知らないであろう時期に市販されていたことも驚かされる。
 もし今後日本でヒアリが定着し,その被害が出るようになれば,多くの情報が活字化されるようになるだろう。ヒアリに関する図書がいつまでも本書以外に存在しない方が,日本にとってはいい状況なのかもしれない。読むほどにそうあることを願いたくなる図書である。