身体を通して時代を読む 武術的立場
著 者:甲野善紀、内田樹
出版社:文藝春秋
ISBN13:978-4167773984

身体を通して時代を読む

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

木下文子 / 横浜市山内図書館
週刊読書人2020年6月26日号(3345号)


 日常歩くときに右足を出し,次は左足を出して,今,重心はどちらにかかっているのだろうと考えながら歩いている人はどれくらいいるだろうか。毎日の習慣により,考えずとも足は自然に動いているはずだ。なんば歩きという右手右足を同時に出して歩いていた時代には,体の重心を意識して現代とは違う歩き方だったようだ。飛脚や侍の歩き方がそうであったという。
 本書は,予期せぬ出来事に対応ができる力を身につけることを武術と定義し,哲学者の内田樹と武術家の甲野善紀が行った対談および往復書簡をまとめたものである。著者たちは,政治や経済,介護問題等を武術的視点から論じ,どのような事柄にも対応できなければならないと言っている。
 現代は昔と違い,着物ではなく洋服を着て,帯刀もしていない。便利な乗り物もあり,馬や籠に乗ることもない。身体の使い方は変化して当たり前だが,身体と思考の結びつきが重要であることは変わっていない。人は自分の意志で身体を動かして,そしてさまざまな事を学んでいくのだ。
 常に武術的思考を積み重ねていくことで学びを深め,次第に習慣が変わり,人柄も変わり,人生も変わっていくのである。現代では手をかざせば自動的に水が出て,扉も自動で開く。意図して操作をすることが少なくなり,自ら考え身体を動かしているという意識は希薄になっているだろう。
 学校の体育で学ぶだけではなく,自然に触れ,身体が何を感じるか,意識と身体のつながりをゆっくりじっくり考えることで,自らの身体を大切に扱い生きていく意味や,人生をどう過ごしていくべきかという問題にたどり着けるのではないだろうか。雑巾がけをし,自らの足で近所を散歩し,毎日生活を支えてくれている手足,身体について考えてみるのはどうだろうか。
 もちろん,この本の読後に。