奇跡のバナナ
著 者:田中節三
出版社:学研プラス
ISBN13:978-4054066540

奇跡のバナナ

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

二熊恒平 / 岡山県立図書館
週刊読書人2020年7月3日号(3346号)


 岡山のスーパーで1本600円の国産バナナが店頭に並ぶことがある。皮が薄く甘みの強い「もんげーバナナ」である。ひときわ高い値がついたこのバナナに,誰もが大いに興味を持つとともに疑問を感じることだろう。ご存知の通り,バナナは熱帯の果物で,日本で見かけるほとんどが輸入品だ。寒さに弱いバナナを日本で栽培するのは難しいからだ。
 本書は日本でのバナナ栽培という難題に挑戦し,見事に夢を実現した田中節三氏による手記である。田中氏はバナナの起源が最終氷期(約1万3000年前)のインドネシアにあるとされていることに着目し,寒さに強いバナナを再現しようと試みる。農業の常識・植物の定説にとらわれることなく試行錯誤を繰り返し,バナナの成長細胞を冷凍することによって遺伝子の中に眠る氷河期を生きた力を呼び覚ます「凍結解凍覚醒法」という技術を発見する。
 この技術を使えば,冬は0度近くなる岡山の露地でバナナを育てることができるようになる。そればかりか,バナナ栽培が直面する課題である新パナマ病による収穫量の減少を防ぐとともに,一本の木からバナナを収穫する時間が短縮できる。病気に強いため農薬を使用する必要もない。
 田中氏はこの技術を小麦などバナナ以外の植物にも応用していく研究を進めているという。
 今はまだ高級なこの国産バナナとそれを生んだ技術が広まれば,やがて世界の食糧危機を救う可能性まで秘めている。
 バナナを40年かけて開発したこの技術に対する著者の真摯な思いが私たちの未来を変えるかもしれない。そんな夢のある物語がすぐ身近にある,なんとも希望にあふれた一冊である。