間違う力
著 者:高野秀行
出版社:KADOKAWA
ISBN13:978-4040821986

間違う力

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

雄川環 / 砺波市立砺波図書館
週刊読書人2020年7月17日号(3348号)


 今では「ノンフィクション作家」という肩書を持つ著者だが,当初は未知の生き物を探す「辺境作家」を標榜していた。『未来国家ブータン』(集英社 2012)は,本来雪男探しが目的だった。見つけることは出来なかったが,結果としてブータンという国家を考察した一冊となり,話題の書となった。
 作家として成功したものの,結局当初の未知の生き物を探す冒険は成功していない。しかし旅で得たスキルや経験則はその後の冒険に役立っている。言語獲得能力はとにかく高く,大学で講師を務めるほどである。先生にならうほか,前もって現地の言語の文法を調べ,単語帳を作り,現地でも必ず言葉を学ぶ。現地の人と会話ができれば,日本では得られないローカルな情報が手に入る。単語帳を作る方法は,学生のときに「ラクをする」ために編み出したやり方で,英単語を覚えるために教科書の出題範囲に出てくる単語の頻出度を調べ,自分の教科書を作っていたのだという。また探検部在籍中に自分がラクになるために,リーダーになったことで,ひとりで行動できるようになった。著者は決して一流の研究者ではないが,人がやってないことをとにかくやる,やり続けて追い求めた結果,「間違って」いるように見えたものが転じて「オンリーワン」作家として成功したのだ。
 この本は2010年に刊行された当時売れ行きはよくなかったが,編集者の「ますます世間が個人の選択肢を狭める方向に動いています」(p.14)という言葉で7年後の再刊が決まったという。オンリーワンにならなくても,自分の中にあるワクワクする気持ちを大切にしてほしいと,閉塞感あふれる日本で叫んでいるようにも思われる。
 ただ,著者のように「怪しい人にはついていく」(第6条)のはほどほどにすべきかと思う。