緊張をとる
著 者:伊藤丈恭
出版社:芸術新聞社
ISBN13:978-4-87586-447-9

緊張をとる

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

山本敬子 / 小林聖心女子学院
週刊読書人2020年7月31日号(3350号)


 緊張してうまく話せなかった,そんな経験を持つ人は決して少なくないだろう。緊張せずに本番を迎えたいと願うのも無理はない。しかし,緊張をとるには,それをないものとするのではなく,緊張している事実を認めることから始めるのが効果的である。
 本書は上がり症の冴えないサラリーマンと,派手で下ネタ好きのスナックのママとの会話を中心にシナリオ形式で描かれる。ママの正体は引退した「伝説の天才美人女優」。緊張のあまりプレゼンがうまくいかないという男に,緊張のとり方と演技の初歩を教えていくというのが話の筋である。
 著者は演技トレーナーで,ここで取り上げられているのは主に,いまの演劇界で広く知られている「メソッド演技」の手法だという。緊張の原因や種類,緊張をとるための心構えや練習方法が順に紹介されていく。具体的にはまず,楽しんでいるときは緊張しないという前提から,ジブリッシュ(めちゃくちゃ言葉)により楽しみやすくする下地をつくることが提唱される。
 その他,集中とリラックスと興味のバランスの取れた「絶妙の中途半端」状態を目指す,ポジティブだけでなくネガティブな面も取り入れる,大きな目標のために小さなこだわりを捨てるなど,人生そのものに通じる心構えが散りばめられた練習方法や,ビートたけしの一発芸「コマネチ」により躊躇をとる,発声と滑舌をよくする,乗りやすくするために音楽にあわせて下手でも踊る,「悪役レスラーの入場」さながらに悪態をついてテンションを上げるなど,意外性に満ちた練習方法が挙げられている。
 俳優が積み上げてきた瞬間的緊張,慢性的緊張の双方に働きかける知恵が詰まった一冊。これらの練習を実際に取り入れようと思い立った時点で,すでに何かが吹っ切れているはずである。