デザインってなんだろ?
著 者:松田行正
出版社:紀伊國屋書店
ISBN13:978-4-314-01145-7

デザインの謎を探る冒険の書

古今東西の人類の歴史が縦横無尽に

山本貴光 / ゲーム作家・文筆家
週刊読書人2017年5月19日号


「デザインってなんだろ?」という気さくな問いに誘われてページを繰ると、目次には「色ってなんだろ?」から始まって、装飾、ロゴ、レイアウト、表現と、一見オーソドックスな題目が並ぶ。
 
だが、一歩本文に踏み込んだ途端、読者は自分がなんの本を読み始めたのだったかと、楽しい混乱を味わうことになる。そこではグラフィックデザインを中心として、古今東西の人類の歴史が、紀元前数万年前から現在までの時間が、素粒子から宇宙までの空間が、人が、社会が、交通が、商業が、技術が、生活が、思想が、縦横無尽に集め編まれている。
 
「え、どうして? デザインの本なのに?」と疑問が浮かんだとしても無理はない。本書は言ってみれば、現在のデザインはどのようにして今あるようになったのかという謎を探る冒険の書なのだ。今日ではお約束や常識のようになっていることも、本を正せば過去のいつかどこかで誰かがある動機に促されて発案し、それがまた別の誰かに受け継がれたり、広まったりして現在まで伝わったもの。ただ、そうした因果は目に見えない。
 
著者は、これまでデザイナーとして、著者として、数々の本やグラフィックを手がけ、宇宙や歴史をダイアグラムに象ってきた松田行正氏。彼が歴史探偵となって、デザインを巡る謎に迫ろうというのだから面白くないはずがない。
 
その一端をお伝えするために、レイアウトの検討で言及されている要素を並べてみよう。文字の発明(そう、ここから!)、古代メソポタミアに現れたシンメトリーの絵、二世紀にプトレマイオスが地球中心説を唱えた際の同心円、中国の天円地方論、中世ヨーロッパの修道士による楽譜、活版印刷術、宗教戦争、一六世紀の挿絵本、ケプラーによる太陽系の図式化、図をふんだんにつかった『百科全書』、一九世紀の数学におけるグラフ、表情の記号的表現、資本主義と大量生産、共産主義革命、ウィリアム・モリス、二〇世紀のアイソタイプと東京オリンピックでの利用……
と、そんなことでもなかったら一堂に会さなかったかもしれない知が互いにつなぎあわされて、現在私たちが知るデザインにまで至るのだ。おお、本や雑誌には、一体どれだけの出来事や創意工夫が、それと知られることなく密かに凝縮されているのだろう!
 
そんなふうに興奮しきりで読み終わり、すぐにまた冒頭に戻って読み直しているうちに遅まきながら気がついた。あ、そうか。デザインとは、人間が森羅万象をモノのうえに図や言葉で象り、並べ、組み合わせて形にすることなんだ。だから大袈裟でもなんでもなく、無縁のものは一つもない。しかも一見そうは見えなくても、気が遠くなるほど長い時間とたくさんの人たちのアイディアと知恵の連鎖のうえに成り立っている。その見えない因果を読み解こうと思ったら、このような百学連環の書ができるわけである。それにしたってなんという百科全書的な知のオデッセイがあったものだろう!(やまもと・たかみつ=文筆家・ゲーム作家)

★まつだ・ゆきまさ=グラフィック・デザイナー、デザインの歴史探偵。「オブジェとしての本」を掲げるミニ出版社、牛若丸主宰。著書に「眼の冒険」「はじまりの物語」「線の冒険」「はじめてのレイアウト」ほか。