池上彰の世界の見方 中東
著 者:池上彰
出版社:小学館
ISBN13:978-4-09-388555-3

中東の混乱の経緯が驚くほどよくわかる

本の編集人より

/ 小学館編集部


数年前から、世界各地でイスラム過激派のテロが相次いでいる。なかでも特に過激な手段で世界中を相手にテロを仕掛けてきたのが自称「イスラム国」(IS)だ。

「テロ」とは「恐怖」という意味。相手に恐怖を与えることで有利な状況をつくり出すことだ。ということは、「イスラムは怖い」と思ってしまうことが、テロに屈することになる。本来平和を求める宗教のはずのイスラムが、なぜマイナスのイメージで見られるのか。まずは中東とイスラムの基礎・基本から見ていこうというのが、本書の主旨だ。
 
本シリーズは、池上さんが実際に中高生に向けて授業をし、それをもとに構成している(今回は都立国際高校で授業を実施)。中東の混乱の歴史を、どこまでさかのぼって解説すればよいのか、池上氏も悩んだ。映画『アラビアのロレンス』で描かれた第一世界大戦頃からにすると長大になる。熟考の末、1979年に起きたソ連のアフガニスタン侵攻から説明することになった。そして、それは大正解だった。

ざっくり教科書的に説明すると──。

東西冷戦時代、ソ連が「国境を接している国に、自分たちの言うことを聞く政権をつくろう」という勝手な都合で、アフガニスタンに攻め込んだことがそもそもの発端だった。ソ連と対立していたアメリカは、これは絶好のチャンスだと考え、アフガニスタンの反政府勢力を支援した。その反政府勢力の中からオサマ・ビンラディンという鬼っ子が生まれた。湾岸戦争をきっかけに、オサマ・ビンラディンはアルカイダを使ってアメリカに対し大規模なテロを仕掛けた。それに怒ったアメリカが、アルカイダのいるアフガニスタンを攻撃し、さらにブッシュ大統領の私怨もあってイラクをも攻撃し、フセイン政権を倒した。しかし、アメリカのいい加減な統治で、イラク国内は大混乱し、内戦が勃発。その中からさらに過激な自称「イスラム国」が生まれ、世界中でテロを起こしてきた。

要するにソ連とアメリカの身勝手な思惑によって、中東の大混乱が引き起こされたということが見えてくる。

ちなみに、アルカイダはアラビア語で、英語に訳すと、the base つまり「基地」という意味。

アルカイダは、ソ連に侵攻されたアフガニスタンを支援しようと周辺のイスラム圏から集まってきた若者たちの名簿づくりをする「基地」だったのだ。そして名簿づくりをさせたのはアメリカCIA。アルカイダがやがて反米テロネットワークへ発展することを思えば、なんと皮肉なことだろう!