灰色の服のおじさん
著 者:フェルナンド・アロンソ
出版社:小学館
ISBN13:978-4-09-726695-2

スペインの児童文学の至宝、初の完訳なる!

子どもにも大人にもじんわり迫る、不思議でほろ苦い8つの短編!!

本の編集人より

/ 小学館編集部


時は1978年、フランコ独裁政権が消滅した直後のスペイン。人々が圧政からの解放をよろこび、同時に戸惑い、混乱が渦巻いていた時代。

そこに登場した一冊の児童書がスペインの人々の心を奪い、大きな評判を呼びました。

それがこの本、『灰色の服のおじさん』です。

8つの短編からなるこの本は、ざっくり分類すれば「ファンタジー」になるのでしょうが、どれもとても「地味」な物語です。

豪快な魔法も、英雄たちの戦いも、神秘の秘宝も、まったく出てきません。

登場するのは地味で平凡な日常ばかり。

そんな日常が、しかし著者の幻想の目を通すと輝きを放ちはじめます。

そこにあらわれてくるのは、ほろ苦い感動と、内に秘められた情熱と、かすかな感傷。

ここらへんは、私にはとてもスペイン的な作品だなと感じられました。

…地味な日々を送る、灰色のおじさんは、ただ一つの楽しみ<歌うこと>を禁止される。なんという絶望! しかし、そこに起こった奇跡とは?(「灰色の服のおじさん」)

…誰にもねじを巻かれなくなったおじいさんの古時計。一つずつ、文字盤の“数字”たちが逃げ出した。彼らはいったいどこへ?(「古時計」)

…町を見下ろす美しい塔。人々に愛されるその塔に住み着いた男は、いつしか町を支配するようになって…?(「塔の番人」)

長期独裁政権の終了で社会が混乱しているスペインで、この本の「静かで熱い」メッセージは、子どもたちにも、そして大人たちにも大いに受け入れられました。数々の文学賞を受賞し、今も愛され続けている古典的名作となりました。

これまで、一部の短編は訳されていましたが、全編の翻訳は初めてです。

翻訳は轟志津香さん。今回、轟さんのご提案で翻訳が実現しました。

また訳文も、原文の詩的な工夫を活かしたうえで、音楽的で分かりやすい文章にしていただきました。

さらに、装幀にもご注目を!

表紙にはタイトル「灰色の服のおじさん」が2行だぶって入っています。

このタイトル、右は地味な灰色に、左はカラフルに見えませんか?

でも実は左右の文字色はまったく同じです。

同じ色が、白地背景ではモノトーンに見え、灰色の背景ではカラフルに見えると…いう錯覚を利用したデザインです。

このデザインコンセプトが、本の内容にぴったり! 最初の構成案を見た瞬間、これだ!と思いました。

デザイナーの山本晃士ロバートさんは、クリエイティブ・グループ「ユーフラテス」のメンバー。「ピタゴラスイッチ」や「2355」「0655」などのテレビ番組制作に携わる気鋭のアーティストの、初の児童書への挑戦です。