旅の効用 人はなぜ移動するのか
著 者:ペール・アンデション
出版社:草思社
ISBN13:978-4-7942-2436-1

一歩、外へ

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

渋谷有希子 / TRC データ部
週刊読書人2020年8月21日号


今年はコロナ禍で趣味に旅行を挙げる者にはなかなか厳しく悲しい世情である。規制が解除されたら、薬ができたらと時期を伺いながら旅行先を探している人もいるのではないだろうか、かく言う自分もその一人。今はガイドブックで行ってみたい観光地を探し出す楽しみ方もあるが、この際旅とは何か?立ち止まって考えてみるのはいかがだろうか。 著者のペール・アンデションは、1962年生まれのスウェーデンのジャーナリスト・作家で同国の旅行誌『ヴァカボンド』の共同創作者である。インドを中心に世界各地をバックパッカー、ヒッチハイカーとして旅しており旅行歴は30年のベテランだ。 旅行回数が増えてくると今まで一番良かったところ、再訪したいところはどこかと聞かれるのは、旅行者の間ではよくあることらしい。その時の著者の説明はこうだ。旅はジグソーパズルのようなもので、最初の旅はパズルを初めてやってみる段階で、そのあと1つずつはめ込んでいくと全体像が見えてくる、戻っていくたびに少しずつ分かるようになってくる。 彼のように〝戻る〟感覚になる場所を見つけ出すことは、皆ができることではない。そして、時間があっても気力が続くとは限らないのだ。そんな場所をもう手に入れた自慢をされてしまい、羨ましいの一言では言い表せない。 尚、著者は再訪したい土地として、ギリシャのナクソス島とインドのムンバイを挙げている。なぜたくさん島のあるギリシャでナクソス島なのか。最初は島巡りツアーの取っ掛かりに過ぎなかったが、洗練されていない美しい場所探しをしていたカメラマンとの出会いや、ホテル経営者の暖かいもてなし、ギリシャ群島の原型と言うべき光景のプラカ・ビーチなど行くたびに何かを発見し続け、今や夏の別荘と言える場所になったそうだ。一方、ムンバイだが1995年まで英語の公式名称「ボンベイ」と呼ばれていた地でこちらの方が馴染みのある人もいるかもしれない。そのムンバイのパズルのピースは本書のあちこちに散りばめられているので、探し出しながら読み進めるのも楽しい。 ムンバイに〝戻る〟という言い方をするスウェーデン人の著書なので、インドを含めヒマラヤやウズベキスタン、トルクメニスタンなどスタンの付く国巡りなどアジアの記述が多い。また本書は著者の旅行記でありながら、映画や小説、紀行文学だけでなく最新の研究論文からの考察も交えて旅とは何かを論じている。本書は、どうして旅に出るのか、旅に出たい欲は病なのか、過去の自分の旅は何だったのかと、一般的な旅行記からは得られない新しい旅の見方を教えてくれる。外に出ることの楽しさを実感した今こそ、旅行に興味がなくても読んでみてほしい。