幸せってなんだっけ? 世界一幸福な国での「ヒュッゲ」な1年
著 者:ヘレン・ラッセル
出版社:CCCメディアハウス
ISBN13:978-4-484-17102-9

幸せな新生活様式~ヒュッゲな暮らしの秘密~

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

松田靖代 / TRC 東日本支社
週刊読書人2020年8月21日号


『本当の幸せとは何か』について考えたことがある人は少ないであろう。不眠不休の激務の中で上司や会社に称賛されること、家族が眠っているタワーマンションに帰宅すること、趣味や勉強の代わりに高級ブランド品を購入すること。これらは幸せと呼べるのであろうか。
 
「幸せはお金では買えない」誰しも一度は耳にしたことのある言葉だが、もし幸せがお金で買えないのなら、幸せとはどうしたら手に入れることができるものなのか。
 
本書は、イギリスの大都市ロンドンで煌びやかな生活に憧れる女性向けの一流雑誌の編集者であったヘレン・ラッセルが、夫の転職に伴い世界一幸福度が高いといわれている国デンマークへ移住したことをきっかけに自身の生活を見直し、デンマーク国民の幸せの基準とは何かを専門家や街の人に取材し解説のようにしてまとめた1冊である。
 
デンマークといえば、世界一幸福度の高い国の他にも子育てがしやすく子供に優しい国、社会福祉の充実、世界一労働時間の短い国、また世界で初めて同性カップルのパートナーシップを認めた公正で差別のない国とも言われている。税金はとても高いがそれに文句を言う人はほとんどいないそう。というのも税金の使い道がとてもクリアで、医療費や教育費が無料で、年金制度や高齢者福祉がとても充実していて、『ゆりかごから墓場まで』を実現している国として有名だからである。ただ、デンマーク国民の幸福指数が高いのは、社会福祉制度が充実しているからというわけだけではないと感じた。彼らは根本的に幸せを感じるセンスが高いのである。それは、デンマーク国民の合言葉である「ヒュッゲ」に隠されていた。
 
本書を読むまで、幸せとは何かなんて考えたことは一度もなかった。というのも、何かにひどく悩んだことも、ストレスで眠れないなんてことも一度もなくそれなりに幸せだろうと思い込んでいた。本書は、私たちの当たり前の日常に疑問符を投げかけ、自身の生活を見つめ直し大事なものを改めて考えるきっかけを与えてくれる1冊である。コロナ渦の中で新様式の生活スタイルが求められ、ますます人との距離感が強くなってしまうであろうご時世にぜひ一度手に取り、自身の生活や大切な人、本当に必要なことやモノについてじっくり考える時間を取り、何か新しい価値観を発見し、幸せを感じるセンサーの感度をあげヒュッゲな人生を送るきっかけになればと思う。