移民の世界史
著 者:ロビン・コーエン
出版社:東京書籍
ISBN13:978-4-487-81254-7

古今東西の様々な人の移動を紐解いた一冊

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

堀田善之 / TRC 仕入部
週刊読書人2020年8月21日号


内戦が泥沼化し大量の難民を生み出すことになったシリア、ムスリムが国内に急増した影響が懸念されるヨーロッパ、そして移民を警戒しメキシコとの国境地帯に壁を築こうとするアメリカ・トランプ大統領など、移民を巡る話題には事欠かない現状をどのように読み解くべきか。本書は「人の移動の始まり」「近現代の人の移動」「現代の人の移動」そして「論争と進展」の4部に分ける形で44のテーマを取り上げ、人の移動がどのような理由によって引き起こされ、どういった経緯を辿ったのかを解説している。
 
古くからある移動の要因は宗教を絡めたもので、特にその伝播に伴う世界の拡大、ヨーロッパにおけるユダヤ教とムスリムの排除は大きな人の移動を伴った。またムスリムに課された五行の1つ、メッカへの巡礼(ハッジ)には毎年200万人以上が訪れ、あまりの多さに近年では受入制限が行われるそうだ。また近世のヨーロッパによる植民地支配の枠組みの中で広がった奴隷貿易、世界中に広がっていったインドや中国を中心とするアジアの年季奉公人のような強制移動が紹介されていたが、本書に記載されている数を見ると、それが想像以上に多かったことに改めて驚かされる。
 
近年は民族や宗教的な理由によるものも多かったが、国を巡る事情で突然状況が変わり、振り回され行き場を失う人々の困難を思うと同情を禁じ得ない。他方、欧州を中心として移民の増加に伴う懸念と、労働力を求める複雑な思惑が透けて見える各国の事情、仕事を求める出稼ぎ労働者の駆け引きがあり、あるいは内戦勃発などの政情不安によって大量に発生した移民の受け入れにも国として難しい判断が求められている。
 
本書では音楽、ノマド、伝道者、巡礼者、兵士、探検家、留学生といった事例なども取り上げ、以前はやむを得ない事情で移動せざるを得ないことが多かった人々が、アイデンティティへの意識を高めてゆく中で、自らがどうあるべきかという部分にも目を向けるようになり、それが人の移動にも大きな影響を及ぼし始めていることを示唆する。世界を移動する人の流れが、現代の生活に付随するさまざまなものの流れと同じようなものになりつつある中で、これからどのような流れが生まれるのか、今後の動向に注目したい。