〈美しい本〉の文化誌 装幀百十年の系譜
著 者:臼田捷治
出版社:Book & Design
ISBN13:978-4-909718-03-7

本 「美しさ」の歴史

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

菅原信乃 / TRC データ部
週刊読書人2020年8月21日号


あなたが一冊の本に目をとめる、その理由は何だろうか。私にとって少なからず理由になり得るのは、本の「美しさ」である。
 
本書は、『デザイン』誌編集長などを務め、日本タイポグラフィ協会による佐藤敬之輔賞を受賞、グラフィックデザインと現代装幀史、文字文化分野で執筆活動を行う著者による一冊。本の「美しさ」を担う日本の装幀文化の歴史が紐解かれる。
 
現在国内で流通している本の多くは洋本(洋装本)である。この文化が始まった明治期から、日本では出版社が装幀まで済ませることが一般的となっている。一方、かつて西洋において本とは「折り帖」や仮綴じの状態で購入するものだった。本格的な仕上げは入手後に個々で製本家へ依頼するため、流通時には軽装でよかったのである。著者は、このような文化の違いによって、日本の装幀文化は世界でも稀なほど豊かに醸成されたのだと説く。
 
夏目漱石『こころ』(岩波書店、一九一四年)などが生まれた黎明期には、著者本人や画家・版画家による装幀などが見られた。たとえば鳳(与謝野)晶子『みだれ髪』(東京新詩社、一九〇一年)は画家の作。ハートマークの中に女性の横顔が描かれた表紙は歌の熱い想いがにじみ出たようで印象的だ。それからおよそ百年、装幀という文化はその傾向や担い手、制作ツールなどを時とともに変えながら連綿と続いてきた。本の外回りを中心とする装幀から、本文組など本全体を対象とするブックデザインへ。手掛ける範囲も広がり、多様なジャンルの人間が入れ替わり立ち替わり美しい本を生み出していく。
 
興味深いのは、たとえ業界のメインストリームとは言えなくとも、その継承者が現れ、作品を結実させていることだ。例えば、洋本が主となるなかで生まれるのが、和本の典籍に見られる全体を囲う罫線を採用した本や、絵巻物の特色である詞書と絵が共存する形を引き継ぐ本。また、時流がデジタル・テクノロジーへ移行し、著者の言を借りれば「デザイン制作の『大衆化』」が起こるなかでは、デジタル技術と独自性をうまく共存させ、まるでアナログ時代のようなオリジナリティにあふれた本が生まれる。文化の豊かさを体現するようなそれらはあまりに魅力的で、ぜひ現物を目にしたいという思いをかき立たせる。
 
このように、本書には前述した『こころ』からここ数年の作に至るまで、多くの実例が登場する。そしてその多くが写真に収められ、巻頭のカラーページや本文中の図版で見ることができる。たとえ装幀に関する知識に自信がなくても、視覚的に理解し楽しむことができるしかけだ。
 
最後に。読了後、奥付の次をめくってほしい。本書の装幀について詳細に書かれたそのページには、著者のこだわりが詰まっている。