現代アフリカ文化の今 15の視点から、その現在地を探る
著 者:ウスビ・サコ・清水貴夫(編著)
出版社:青幻舎
ISBN13:978-4-86152-779-1

アフリカの「今」を描いた異色で魅力的な本

同時代性にこだわり人々の息づかいを伝える

松浦直毅 / 静岡県立大学国際関係学部助教・人類学・アフリカ地域研究
週刊読書人2020年8月28日号


本書を手に取ったはじめの印象は、「異色で魅力的なアフリカ本」というものであった。字義どおりに「色彩」の意味で、鮮やかな色づかいと随所にちりばめられたカラー写真が印象的である。カラフルであるだけでなく、民芸品、絵画、彫刻、建築物、写真作品、さらには、漫画、CDジャケット、アフリカンプリント布など、色とりどりの題材に目を奪われる。内容の面でも異色である。列挙した題材からもわかるように、本書が焦点を当てているのはアフリカのポピュラーカルチャーであるが、アートや音楽など特定のテーマをあつかった本は多くあっても、ここまで幅広くポピュラーカルチャーを射程に収めた本はほかにないだろう。その広範さは執筆陣にも表れている。研究者が中心であるが、美術館関係者、音楽ライター、アフリカ人映画作家などが参加して彩りを添えている。編者のひとりである清水が「あとがき」に書いているのと同様に、二〇年近くアフリカ研究に携わってきた評者にとっても、初めて知ることが多く、新しい発見に心を躍らせながら読み進めた。
 
本書の特徴として、同時代性にこだわっている点も挙げられるだろう。タイトルに「現代」、「今」、「現在地」と並んでいるのは表現過剰に思えなくもないが、現代を生きる人々の息づかいが躍動感をもって随所から伝わってくるのはたしかである。清水の章では、ジャマイカ発祥のラスタ思想がアフリカの若者たちにも浸透しており、こうしたラスタマンのなかに土産物売りたちがいることが述べられている。ラスタが抵抗の対象とする資本主義経済システムの体現ともいえる外国人旅行者を相手に、ラスタが掲げる「平和と愛」を強調し、「純粋なアフリカ」のイメージを駆使して対峙している点が興味深い。緒方の章では、生活や慣習と深く結びついたアートの諸相が描かれている。ありふれていて見過ごされがちな看板、横断幕、レジ袋などにもそれを担うアーティストがおり、かれらもまた「生活と創作のはざまで」揺れ動きながら日々の暮らしを営む生活者であることに気づかされる。和崎、菅野、小川の章からは、「ふつうの」アフリカの人々の活動範囲や社会的ネットワークもいまやグローバルに広がっており、私たちにとってもじつは身近な存在になっていることがわかる。アフリカの都市建築が「無計画で統一感のない混沌としたもの」であり、だからこそ「ダイナミズムとエネルギーを感じさせる」というサコの記述にも深く納得がいく。
 
内容の瑞々しさの一方で、荒削りな印象がないわけではない。たとえば「文化」の概念があいまいで、十分に吟味されて扱われているわけではないという印象を受けた。なじみやすい題材で初学者向けのようだが、各章の情報量と難易度はバラバラで、人物や作品の紹介の章と学術的論考の章とが入り混じっており、かならずしも初学者に優しくはない。ただ、このような荒削りさも題材の新しさゆえであり、本書の魅力なのかもしれない。ポピュラーカルチャーという新たな切り口から、まずは関心の惹かれるままに本書を繰っていただくことをお勧めしたい。そうすれば、アフリカに対する興味がさまざまなかたちで膨らんでいくにちがいない。(まつうら・なおき=静岡県立大学国際関係学部助教・人類学・アフリカ地域研究)
 
★ウスビ・サコ=京都精華大学学長・空間人類学。マリ共和国出身。一九六六年生。

★しみず・たかお=京都精華大学人文学部准教授・文化人類学・アフリカ地域研究。一九七四年生。