つながりからみた自殺予防
著 者:太刀川弘和
出版社:人文書院
ISBN13:9784409340530

つながりからみた自殺予防

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

東山恵美 / 富岡町図書館(福島県)
週刊読書人2020年8月21日号(3353号)


 「自殺」と聞いて,真っ先に何を思うだろうか。日本の死因統計をみると,自殺はがんと並んで健康上の大きな問題の一つに数えられていて,けっして他人事ではない。
 「自ら命を絶つ」ということはとても過酷だ。なぜ,自殺は起こるのか。精神科医として自殺予防の活動に携わってきた著者は,自殺は,個人が「覚悟の上」で及ぶものなどではなくて,「病」に起因しているのだと訴える。本書は,豊富なデータをもとに,「死にたい気持ち」のメカニズムを知る手助けをしてくれる。
 私たちは「つながり」の中であらゆる現実問題――人間関係,仕事,健康の問題など――に直面する。それらがきっかけとなって,「つながり」に障害をきたすと,心の病(精神疾患)を抱えることがある。ここで,「つながり」を手放し,孤立してしまうと,自殺の道をたどってしまうという。
 心はさわって確かめることもできず,いざ調子を崩してしまったらどう対処すればいいのかよく分からない。その“よく分からない感じ”は,複数の問題が絡み合い,解決の糸口が見えないことからきていると説明して,ひとつずつをときほぐす方途を示している。身近に苦しんでいる人を見つけたらどのように話をきけばいいかなど,実践的な内容にも触れている。
 目からウロコだったのは,日本という国は,つながりの維持と秩序を尊重しすぎるあまり,「つながり」そのものに依存する体質を持っていて,それこそが自殺を助長しているという指摘だ。
 著者は,「自殺予防とは,自殺を考える個人のこころを社会に再びつなげること」(p.138)だと語る。これは,生きることに絶望して,一度は失ってしまった「人間」への信頼を取り戻す営みと言えるのではないだろうか。鎖につながれるような社会ではなく,手と手を取りあうようにつながる社会を展望する1冊である。