ルポ 川崎
著 者:磯部涼
出版社:サイゾー
ISBN13:978-4866250908

ルポ川崎

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

吉井聡子 / 川崎市立中原図書館、日本図書館協会認定司書第 1141 号
週刊読書人2020年8月28日号(3354号)


 「川崎区は日本の縮図そのものだから,図書館利用者の動きをよく見ておきなさい。」初赴任館だった川崎区で,この言葉を当時の図書館長から聞いた。その後10年以上経ち再赴任し,館長は変われども全く同じ台詞を聞いた。川崎市は細長い形状から横断する私鉄によって町の雰囲気が全く変わる。私自身はその中間地点で育ち川崎区は比較的身近な町だった。が,実際図書館員として「カウンターのこちら側に立つ」と,1990年代バブル崩壊後に川崎市では助成として「パン引換券」が配られたが,「市からの助成される食料で栄養は足りるのか」と疑問に思った利用者から栄養成分表と川崎市の予算についてレファレンスを受けたのは忘れられない。それから10年たった川崎市は,駅周辺の再開発であれだけ駅にいた路上生活者はいなくなった(本書によると多摩川河川敷に多くが移動したらしい)。そして外国人労働者と若い人が「自立支援」を求め,図書よりもネット情報を求める。元気な高齢者か介護に悩む家族,と二極化した。今日の日本における社会問題そのものが,この図書館のカウンターの前にあった。
 川崎市は東京都と横浜市に挟まれた立地からの転入者が多く,街への愛着心が薄いと言われている。しかし本書では川崎区桜本地区を中心に,主にHipHop系のラッパー文化が書かれており,時に猥雑で暴力的な表現に眉をひそめる内容も含まれる。しかし,そこには「自分たちの居場所としての川崎への思い」,いわゆる「わがふるさと川崎」が語られていた。今年度の施政方針に「若者たちのストリートカルチャー」が認知されるようになったように街はいろいろなものを受け入れていく。自分の居場所を求め,どんな人も事も受け入れてきた街の歴史があることにこの1冊で気づくこともある。本当に「本」と「街」はいろんな面があると感じさせられた。