世界でいちばん虚無な場所
著 者:ダミアン・ラッド
出版社:柏書房
ISBN13:978-4-7601-5193-6

悲しい地名の数々を巡る旅へ

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

角田匠 / TRC 関西支社
週刊読書人2020年9月4日号


「旅行ガイドブック」と言えば、これから旅に出かける場所のおすすめスポットや美味しいグルメが、楽しそうな写真と文章によって紹介され、旅に出かける興奮を搔き立ててくれる本である。と同時に、出かける予定がない、行けるはずのない場所の様子を見せることによって、私たちに旅行に行ったかのようなワクワク感を与えてくれる本のことでもある。

 本書も副題に「ガイドブック」と記載があるのだが、対象者が「旅行に幻滅した人のため」とガイドブックのイメージからはかけ離れた副題となっている。

 その副題に呼応するように、目次にも不穏なものが並んでいる。「世界の終わり」「絶望山」「破滅町」「飢餓港」などなど、ショッキングな言葉が並んでいる。

 著者は元々、InstagramにてGoogleマップ上の悲しい地名をスクリーンショットし、特に説明もなく画像のみを投稿しているのだが、本書ではその悲しい地名の裏に隠された物語と著者の想像をまじえて紹介されている。著者自身も、本書に出てくる場所に行ったことがなく、この先も行くことがないと言い切っている。さらに言えば、「本書はある種の地名コレクションとして読めるが、旅行ガイド、より正確にいえば、反旅行ガイドとしても読むことができる」とも書かれており、一般的な旅行ガイドとは違いその土地の写真などはなく、その悲しい地名がつけられた歴史や神話を紹介している。

 言葉は時として、風景のメタファーとなりえるため、こうした悲しい地名の裏に隠された歴史や神話を紹介されることにより、私たちも行ったことのない土地へと想像力による探検を行うことができる。著者も、「読者のみなさんには、自宅で、お茶を淹れ、肘かけ椅子に腰を下ろしていただきたい。そうして、地球上でもっとも悲しい場所の探検に向かっていただきたい。」としており、私たちに想像力による探検を促している。

 コロナウイルスの猛威がとどまることがなく、ステイホームが叫ばれており旅行に出かける機会を失われた人が多くなっている今、私たちができるのは、行ったことのある土地で楽しかったことや面白かったことを思い出すことと、本書のような行ったことのない場所の説明を読むことで想像上の旅をすることである。

「反旅行ガイド」と著者は本書を位置付けているが、滅多に旅行に行く機会がない人はもちろん、多くの土地に出かけたことがあり旅行に慣れている人でも新たな旅の形を私たちに示してくれる1冊となっている。