配膳さんという仕事 なぜ京都はもてなし上手なのか
著 者:笠井一子
出版社:平凡社
ISBN13:978-4582838275

京都に「配膳さん」がいた時代

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

篠野恵 / TRC 仕入部
週刊読書人2020年9月4日号


 配膳という仕事をご存じだろうか。

 名前から食事の際にただ膳を運ぶだけの仕事のように思われるかもしれないが、決してそうではない。明治末ごろに京都の町なかに登場した配膳は、宴の一切を裏方で取り仕切る、京都固有の職業だ。茶会の水屋作業、神社・寺院の行事、冠婚葬祭の儀式、能楽関係、呉服展示会、料亭・お茶屋の接待、個人のお宅仕事など、配膳の受け持つ場面は多岐に渡る。座敷を演出し、客を迎え入れ、宴の最中にも厨房と連携しながら料理が最善のタイミングで客に届くよう調整し、見送りの際には履物や土産もつつがなく用意する。そして服装は紋付き袴。原則として男性の職業だ。

 本書はその配膳という仕事を実際の「配膳さん」やその周辺への取材をもとに読み解いていく。

 配膳はただ雑用を受け持っているようにも見えるが、それは配膳の本質とは言えない。おもてなし、これこそが配膳の根底にあるものだ。

 例えば客の送り迎え。履物を預かり、雨ならば傘も預かる。そして見送りの際には客の顔を見ただけでさっと履物を用意できるのが配膳だ。同じ関西である大阪では下足札は当たり前に使うようだが、京都では「下足札使わな誰やわからんのか、いうことで、かえって気ぃ悪しはる」のだと取材をうけた配膳が語っている。ところで随所にあるこの小気味よい京都弁も本書の魅力だ。

 料亭では座布団やテーブルに敷くクロスなども配膳が手配する。クリーニングはもちろんその専門店が担うが、配膳が細かい指示を出すこともある。本書に登場する配膳はクロスの畳み方にまでこだわっていた。その日の献立や使う器によって一人分の席幅が決まるが、主賓の前だけその席幅分、折り目が出来ないようにしようというのだ。

 こういった細やかな心配り、おもてなしこそ配膳の本質といえよう。

 本書は一九九六年に大阪の向陽書房から刊行されたものの改訂版で、取材を始めたころからは実に三十年以上の歳月が経っている。改訂に際しての附記では、当時取材をした配膳も既に故人となっている方が多いこと。その配膳のいた料亭はなくなり、寺院の仕事も配膳ではなく寺出入りの職方が受け持つようになったことなどが伝えられている。

 だが配膳のおもてなしは、今では全く体験することができないというわけではない。当時は一線を退いた配膳が学校で接客術の講師をすることもあった。配膳が伝えた京都のおもてなしの精神は、現代にも息づいていることだろう。