ざらざらをさわる
著 者:三好愛
出版社:晶文社
ISBN13:978-4-7949-7183-8

ざらざらをさわる にさわってみた。

質感を描く絵、おだやかなユーモアのある文章

南伸坊 / イラストレーター・エッセイスト
週刊読書人2020年9月11日号


 かつて赤瀬川原平さんが二〇〇五~二〇〇六年にかけて、三冊の奇妙な本を刊行した。一一〇ページくらいの薄い本で、絵と短い文章で構成されている。

 内容は論考というか、論文のようなもので、それを絵と短い文章で展開していく。一読して私は「画期的な本だ!」と大いに興奮した。そうして、書評もしたと思うが、世間的にはほとんど話題にならなかったと思う。

 『ふしぎなお金』『自分の謎』『四角形の歴史』の三冊。「こどもの哲学・大人の絵本」と題したシリーズだったが、この三冊は、私がいまでももっとも赤瀬川さんらしい仕事であると思っている名作である。

 なぜ紙幅の限りのある中で、わざわざ一五年前の本について言及したかというと、三好愛さんの『ざらざらをさわる』という本は、あの、赤瀬川さんの本と、どこか相通じるものがあるのじゃないか? と思ったからだった。

 『ざらざらをさわる』も、イラストレーターである三好愛さんが、絵と文で日々に感じたり、考えたりしたことを表わした本であって、本の形になることによって、絵だけではいろいろに考えられて、しかとはわかりかねるところが、文が添えられることによっていきいきとニュアンスが感じられたり、著者の考えたり感じたりしていることにうまく同調できた気分になるところ。

 絵と文の両方を見ることで、文だけを追っていたのとは違う理解を得られたような気のするところが似ていると思ったらしい。

 赤瀬川さんのものは、哲学で論考だから、ややこしくならないように、文は極力少なくしてある。三好さんのこの本は、そんなに混み入った、ややこしいことを扱ったものではないので、その分、文章はずっと多いのだが、文章を切りつめていない分、おだやかなユーモアが感じられる。

 この本のオビを岸本佐知子さんが書いている。「世の中の決めごとからぽろぽろこぼれ落ちた、変てこな思いたち。あの不思議な生き物たちの生まれ故郷が、ここにある。」というので、岸本さんは三好さんの描く「不思議な生き物たち」を予め知っていたらしい。

 私は、自分で思っているより、ずっとおじいさんになっているらしく、三好さんのイラストレーションに、この本を読むまで出会っていなかった。

 ワイシャツのボタンのような目をした、人物や、空気やおまんじゅうや、お化けみたいものが登場する絵は、控え目で、過剰なところのない、いくぶんおとなしく見える絵だけれども、だから魅力を感じる、という人々に支持されているのだと思う。

 おじいさんは知らなかったけれども、三好さんは沢山の若い人達に人気があるのだ。

 ワイシャツのボタンのような目はカンタンだが、触ったカンジや見たカンジが、どんな質感なのか、それを「ちゃんと描きたい」と思っているのがよくわかる。

 オビを書いた岸本さんの文のおもしろさに私はいつも舌を巻いているものだけれども、『ざらざらをさわる』を読んで、三好愛さんのじわじわくるおもしろさも大いに愉しんだ。

 『読書人』編集部から、書評を引き受けていただけるなら本を送りますという旨のメールがあった時「受けるかどうか、読まなければわからない」とお答えした。私は気に入った本のことしか書けないたちなのだ。今はこの依頼に感謝している。(みなみ・しんぼう=イラストレーター・エッセイスト)

★みよし・あい=イラストレーター。東京藝術大学大学院美術研究科修士課程(絵画専攻)修了。伊藤亜紗著『どもる体』、川上弘美著『某』、藤野可織著『私は幽霊を見ない』をはじめとする書籍の装画や挿絵を担当、グッズのデザインも手がける。