女たちのテロル
著 者:ブレイディみかこ
出版社:岩波書店
ISBN13:978-4-00-061342-2

蜂起する女たちが導く連鎖的読書体験

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

松田彰 / 行橋市図書館(指定管理者)
週刊読書人2020年9月25日号


 松田青子『持続可能な魂の利用』、チョ・ナムジュ『82年生まれ、キム・ジヨン』と、フェミニズムがテーマの話題作を続けて読んだ。前者は実在のアイドルを連想させる人物を登場させることで、後者はその世代で最も多い名前をつけられた主人公や挿入された統計情報などから、描かれている内容が単なるフィクションではなく現実と地続きであることを強く想起させる作品だった。

 2冊を面白く興味深く読み、このテーマについてより深く考える必要を感じていたところ、図書館で男女共同参画特集を組むことになった。その中の1冊が『女たちのテロル』である。ブレイディみかこは、パンクの洗礼を受けた福岡出身イギリス在住のライター。『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』で、人種や格差とぶつかり悩みながら乗り越えていく中学生を、『ワイルドサイドをほっつき歩け』では世間の変化に取り残されそうなおっさんたちの悲哀を取り上げていたが、本作は社会の枠におさまらない型破りな女性3人の伝記エッセイである。大正時代のアナーキスト金子文子、武闘派女性参政権活動家エミリー・デイヴィソン、イースター蜂起に関わった凄腕スナイパーのマーガレット・スキニダー。彼女たちの人生が、そのときどきのキーワードをバトンにリレー方式で紡がれる。読み始めはパンク的な語り口を交えた文体に違和感があったが、ページを進めるに従って血が滾るのを感じるとともに、それはこの表現だからこそ生まれるのだと気づいた。3人のうち、特に興味を持ったのが金子文子。出生届が出されなかったため、学校通いもままならず、両親から邪険に扱われ、DVを受け、朝鮮の親戚に預けられるという境遇においても、いや、だからこそなのかもしれないが、どん欲なまでの学習欲をもち、体験によってその知識を血肉にした。結果として虚無主義にとらわれ、短い生涯を終えることになったのは皮肉だが、強靭な精神力と生き様は今の時代にも鋭く刺さる。紹介されている本人の文章は、その背景から想像されるものとは異なり非常に明晰。本書の主たる参考図書として掲げられる、鈴木裕子編『金子文子 わたしはわたし自身を生きる 手記・調書・歌・年譜』を読み、著者が金子のどこに魅了され、どのように理解したのかが浮き彫りになるように感じた。

 本稿では、連鎖的に読み繫いだ本を取り上げた。1冊の本を深く繰り返し読むことで得られる体験も大切だが、読み広げていくことで思いがけない関連性を発見し、立体的・俯瞰的にものごとをとらえられるようになるのもまた読書体験の醍醐味。性別を問わず「フェミニズム」という言葉に身構えてしまう層もあるようだが、描かれる物語や生き様を、人権や自由、マイノリティといった軸を併置して読むことで、対岸のことではなくリアルに身近なものとしてとらえることができるはずだ。