言葉を使う動物たち
著 者:エヴァ・メイヤー
出版社:柏書房
ISBN13:978-4-7601-5233-9

おしゃべりな動物たちの世界へようこそ

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

重田智恵美 / TRC物流管理部
週刊読書人2020年9月25日号


「動物が言葉を話せる」と言われたら、多くの人は子供向けアニメーションに登場するような、流暢に人間の言葉を話す動物の姿を思い浮かべるのではないだろうか。しかしそれが「動物が人間の言葉を分かってくれる」という人間中心の思考が前提にあることをはっきり自覚している人はそう多くはないだろう。しかし今、人間の言葉を特別な存在とするそもそもの考えが疑われている。本書では、アーティストや作家でもある傍ら動物哲学の博士号を持つ著者が、動物の言葉の実証的研究とそれによって生じる哲学的疑問を探求しながら私たちの動物に対する先入観を少しずつときほぐしていく。

 動物は言葉を話す。これは、既に数多くの研究結果が示してきた疑いようのない事実だ。その中には、例えばゾウの超低周波音のように人間が感知できないものもあり、人間を基準に考えているとその存在にすら気づかないような言葉も多い。長い間、思考は言葉によってかたどられる人間のためのものだとみなされ、言葉を話せるのか否かという線引きで動物と人間は区別されてきた。しかし実際に動物は言葉を交わし、さらに人間と同じように感情や思考が存在することも最近では明らかになってきている。

 ゾウやカラスはもともと社会という枠組みの中で協調しあい生活する動物として知られているが、彼らは仲間が死んでしまうとそこに仲間が集まり弔いの儀式のようなものを行う。そして、その場所を数年にわたって訪れるという。それはまるで墓のようであり、ゾウやカラスたちが死という概念を理解しているということを示している。また、イルカは自らの意思で水面に上がらず自死を選択することもあるのだという。他にも、飼育員の流産に気づいたチンパンジーが悲しいという感情を手話で伝えたという話もある。動物たちに感情や思考があり、そしてそれを伝える術を持っているのならば人間が特別だという自意識を取り払うことでそこに差異はなくなる。

 言葉の意味を理解することと彼ら自身を理解することは表裏一体であり、動物たちの言葉を理解するには哲学的アプローチが必要だと著者は言う。言葉を使える、使えないと定義してしまうには、私たちはあまりにもお互いのことを知らなすぎるのだ、と。本書では、膨大な数の動物たちの例が紹介されている。「哲学」や「言語学」などと言われるとつい身構えてしまうが、いったんページを開けばおしゃべりな動物たちが自身のことをたくさん教えてくれるだろう。必要なのは、相手のことを理解したいという姿勢だけだ。いつか彼らと意思疎通を図ることができたら、動物保護法について彼ら自身に意見を聞いてみる、なんていう未来も不可能ではないのかもしれない。そういう未来が現実となるカギは私達次第であるのだと、本書は教えてくれる。