東京幻想作品集
著 者:東京幻想
出版社:芸術新聞社
ISBN13:978-4-87586-584-1

ここは猿の惑星? はたまた天空の城?

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

池田和弥 / TRC仕入部
週刊読書人2020年9月25日号


 鮮やかな緑に覆われた街並みに「JR新宿駅」の文字が目に飛び込んでくる。表紙に描かれた絵が廃墟化した新宿駅南口と気づいたときには目が釘づけになっていた。驚くべき発想力。それを担保する描写力にも舌を巻く。

 さらに眺めると駅前の甲州街道は大きく陥没し、JR各線のホームがむき出しになっている。線路には透明度の高い水が溜まり、イルカやエイが泳いでいる。作品の中の東京で何が起きているのか。その答えを探す小旅行のような感覚でページをめくってゆく……。豪快に倒れた東京スカイツリーに始まり、蜘蛛のオブジェが逃げ出した六本木ヒルズ、動物たちがたむろする上野駅前など、奇想天外な光景が実際の景色と溶け合い妙なリアリティを感じさせる。廃墟と化した新国立競技場はあたかも東京オリンピックの中止を予見していたかのようだ。そして最後に「ノアの方舟」のように描かれているのはまさかのダイヤモンド・プリンセス号……。

 現実が空想を凌駕する新型コロナ禍にあって、現実と拮抗する予言の書のようなリアリティを感じさせてくれる一冊。各作品に見どころがあり何度見てもあきない理由は、見るたびに新しい発見があるからだろう。「ウォーリーをさがせ!」のごとく、何かが隠れているのではないかと夢中になって見入ってしまった。画面の隅々まで仕掛けを施した著者のサービス精神がうかがい知れる。

 そういえば本書には著者の名前が書かれていない。そう思ったら、東京幻想は著者の名前でもあった。著者本人については、巻末でランダムな50の質問に答えているが、驚くほどの多趣味ぶりとともに、ある種の絵にこだわりのない姿勢が印象に残った。実際、本書に収められた作品は大半がここ1年で描き上げたもので、それまで5年ほどのブランクがあったという。「東京幻想さんにとって絵とは?」という質問にも、「……絵は自分にとって心のバランスを保つための一要素に過ぎないですね」と答えている。しかし、その飄々とした姿勢が自由自在な発想力につながっているのではないか、と思うと妙に納得するのであった。

「東京を幻想的に描く」という実に明快なコンセプトからすると、狭量に「科学的には違うはずだ」とアラを探したところで、「だから幻想なんだってば」と一笑に付されるであろう。

 我々の業界に身近なところでいえば、ジュンク堂書店池袋本店や三省堂書店神田本店も廃墟になっている。書店側はどう思ったのだろう。光栄に感じて喜んだのか、不謹慎と眉をひそめたのか。受け止め方は十人十色だろうが、今後、茗荷谷をモチーフに描かれる機会があれば、ぜひ図書館流通センターの本社も壊してしまってください(笑)。