アジア図像探検
著 者:杉原たく哉
出版社:集広舎
ISBN13:978-4-904213-92-6

図像学のフィルターを通して見るアジア美術

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

杉原篤子 / TRC学術情報ソリューション
週刊読書人2020年9月25日号


「図像学」は一般的にあまり馴染みない言葉や学問であろうが、既にご存知の方も、アジア(中国美術)図像学とは何かと首をかしげるに違いない。

 著者はかつて『しあわせ絵あわせ音あわせ 中国ハッピー図像入門』を出し、中国古来の「吉祥美術」を「ハッピー図像」と呼び、花鳥山水画の裏の意味と中国文化独特の解釈を解き明かした。西洋的な意味とは異なる知識を取り戻すための学問が、アジア図像学であり、「要は、図柄の意味や変遷、用法などについて研究する学問なのです。これがけっこう日常生活に役に立つ物であり、知っていると生活がとても楽しくなる物なのです。」と著者は言う。

 本書『アジア図像探検』では、さらにその対象を書や写真、建築、工芸に広げ、範囲も日本、インド、はてはヨーロッパに及ぶ。

 初出は『月刊書道界』のため、「隠れた文字」や「形と文字」「『かな』の文化発信力」など、読者層の書家を意識した文字にまつわる内容が多いが、著者のホームグラウンドである画像石や神仙思想、三国志、信長や義満など世俗権力者と美術との関わり、タブーとされた性表現の問題、「西洋と東洋の融合」を追求したバーナード・リーチなど造形の本質を、図像学のフィルターを通して自在に語っている。だが、著者の逝去により連載は中断したため、発表された学術論文と合わせて編集し、二部構成として出版した。

 後半の論文選では、湯島聖堂「歴聖大儒像」の図像解釈を出発点に、従来日本美術史では領域設定されてこなかった儒教美術を提唱している。

 著者が図像学を手掛けることになった背景に、父が東京友禅染の工房を営んでいたことが関係する。確かに着物の意匠こそ、知識と読解力を必要とする図像学の世界である。幼少時から身近な季節の花々や抽象的モチーフが散りばめられる着物への視線が、「人間にとって美術とは何か」と言う問題と絡み、中国の吉祥図像に出会った。牡丹と獅子や松と浜辺や蝙蝠と桃の図など、日常的な着物や食器のデザインが、一見遠い中国古代美術に結びつく様は、ダイナミックで爽快である。

 本書に関して強調したいのは、著者、監修者、編集者、装丁家が一度も顔を合わせることなく、一冊の本ができあがった事である。

 コロナ禍で世界が一変している現状は想像もしていなかったであろうが、著者はデジタルに強く、手書き原稿が主流の時代から、担当編集者とはメールと電話でのやり取りだけで、メール入稿とPDF上の校正、掲載図版も自作CGのペーパーレス進行だった。

 私達の編集作業も完全なリモートワークだったが、残念ながら完全なペーパーレスとはいかなかった。出版に素人の私が構成提案だけでなく、緻密な編集校正作業に参加させていただけたのは、故人の研究に共鳴して下さった監修の先生と出版社社主、装丁兼担当編集者のおかげである。

 書籍制作は、今後ますますリモートワーク化が推し進められると予感する。