日本の美しい言葉辞典
著 者:梅内美華子監修
出版社:ナツメ社
ISBN13:978-4-8163-6850-9

言葉に残す日本の美しい情景

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

下田富美子 / 川南町立図書館(指定管理者)
週刊読書人2020年10月9日号


 美しい情景を説明する言葉と出会うための、写真集のような辞典である。

 日本の自然や暮らしから生まれた言葉を集め、花と草木、鳥と獣、時と季節、空と夜空、大地と水辺、暮らし、色と7つの章で1000の言葉を200枚の写真とともに紹介している。巻末には、おもな参考資料として、季節の言葉、古典文学、語源、伝統色などに関する書籍36冊が掲載。

 この本で選ばれた言葉は、特定の誰かが作った言葉ではなく、人々の暮らしの手技や感性から生まれた言葉である。

 時と季節の章には、「かわたれ時(かわたれどき)」という言葉がある。もとは明け方や夕方の言葉だったが、現在は主に明け方の言葉とされている。夜明け前から夜明けごろの表現は、さまざまあり「暁(あかつき)」「東雲(しののめ)」「曙(あけぼの)」と刻々と変化する。明け方の空を捉えた1枚の写真が言葉の由来を示す。

 夕方の薄暗い時間は「黄昏時(たそがれどき)」と変化した。彼は誰なのか、はっきりわからないころの時間を表しているという。また、黄昏時は、「逢魔が時(おうまがどき)」とも言い、大きな災いの起こりがちな時を表していて、薄暗く、心もそぞろになりがちな時という意味の夕方のことを表している。

 大地と水辺の章には、「山笑う(やまわらう)」「山滴る(やましたたる)」「山粧う(やまよそおう)」「山眠る(やまねむる)」と山の四季を表した言葉は、広がる大地の雄大さを感じる。

 さらに、色の章では、「唐紅(からくれない)」「弁柄色(べんがらいろ)」「瑠璃(るり)」など、自然にまつわる色や季節に合わせて生まれた配色の言葉の由来がわかり、昔の人の生活まで連想できる。

 時代と共に、風景も言葉の意味も変わるが、監修した歌人の梅内美華子は、「言葉を知ると見える景色が変わる」「ぴったりする言葉で表現するのはむずかしいけれど、少しでも近い言葉であらわしたい」と言っている。

 日本語の美しさを表す言葉は、微妙な違いでさえも伝えようとしている。言葉を知るとその美しい情景に、色や香り、風までも感じられる。日本独特の「美しい」は、まだ出会うことができるだろうか。再発見に出かけたくなった。