国境を越えたスクラム ラグビー日本代表になった外国人選手たち
著 者:山川徹
出版社:中央公論新社
ISBN13:978-4-12-005222-4

国境を越えたスクラム ラグビー日本代表になった外国人選手たち

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

伊藤清彦 / 前一関市立一関図書館副館長
週刊読書人2020年9月4日号(3355号)


 今の日本ラグビーが広く認知されるようになったのは,2015年にイギリスで行われたラグビーワールドカップでの歴史的勝利があったからだろう。
 優勝候補の一角であった南アフリカを,W杯でまだ一勝しかしていない日本が破った,まさにジャイアントキリングであり,多くの国々が新聞の一面トップ記事やテレビのニュース番組で報じ,それは世界を駆け巡った。日本でもテレビで特番が組まれ,一躍選手たちがヒーロー扱いになったことを覚えている。
 しかし,にわかファンが疑問に思ったのは,勝ったのは嬉しいけれども,日本代表なのに外国人が多いのではないかということではなかったろうか。その時の監督,エディ・ジョーンズ氏は,海外出身の選手との調和こそが,日本を最強にすると確信していたようだが。
 この本は,海外出身の選手がいかにして桜のジャージを着て,日本代表としてプレイするようになったかを,歴史的な流れの中で描いている。
 1980年代,トンガ出身の選手たちが,留学生として,勉学とラグビーを両立しての活躍があり,その後,ニュージーランド,フィジー,オーストラリアなどから,日本でのラグビーを求めて来日した人々の経緯が記されている。またそれは異文化との出会いと軋轢でもあったようだ。誰もがすんなりと日本の環境に溶け込んだわけでもなく,また,外国人をチームに入れたからといって急に強くなったわけでもない。お互いの長所,短所をすり合わせ,15人が一体となったチームが強くなったとある。
 今のラグビーは,代表選手の国籍を問わない。
 居住年数など一定の条件を満たせば代表になれる。驚くのは日本だけのことではなく,世界のほとんどの代表チームが,多国籍の人々で構成されていることだ。ここに未来社会のヒントがありそうである。