本をつくる 書体設計,活版印刷,手製本 職人が手でつくる谷川
著 者:鳥海修,髙岡昌生,美篶堂
出版社:河出書房新社
ISBN13:978-4-309-25627-6

本をつくる書体設計,活版印刷,手製本職人が手でつくる谷川俊太郎詩集

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

秋本敏 / 元ふじみ野市立図書館
週刊読書人2020年9月4日号(3355号)


 本がどのように作られていくのか。そこにかかわる人々の仕事を,日頃本に接している私たちはどこまで知っていたのだろうか。本とは,ものづくりとは何かを改めて考えさせられる一冊である。
 本書は,書体設計,組版・活版印刷,製本という三つの領域の職人たちが,蛇腹様式の谷川俊太郎詩集『私たちの文字』を完成させるまでの過程を丹念に描いた記録である。
 プロの手による仕事は,緻密かつ専門的で,素人には想像できないものなのだが,多数の写真や図版を取り入れることによって,本づくりに打ち込む職人の細部にわたる技が手に取るようにわかる。例えば,仮名新書体「朝靄」を1年余りかけてつくりあげていく書体設計士・鳥海修の仕事では,墨入れ,原字の完成,データ化,テスト組版など,さまざまな工程が克明に描かれている。美篶堂の手製本では,資材選び,本文の蛇腹の手織り,ブックケース作成,箔押しなど,丹精でみごとな手仕事が浮かび上がり,本を大切に思い,一手間をかける職人の心意気が伝わってくる。
 職人から職人へ本づくりがバトンタッチされる瞬間,職人同士の緊張感や微妙な心の動きも見逃せない。嘉瑞工房・髙岡昌生が組版の過程で,「朝靄」の仮名に対して游明朝体の漢字が強すぎると感じ,鳥海と話し合う。鳥海が「髙岡さんは(略)組版のプロとしての美意識から,このままでは仮名が小さいと感じ,大きくした。これはとても大事なことです。僕は納得しました。」(p.148)とかみしめるように語る場面は,自負を抑え,髙岡に仕事を託した鳥海の一瞬の心の動きが鮮やかに描写されている。
 「技だけをひたすらに研ぎ澄まして,一冊の本に尽くす」(p.225)職人たちの紙の本への思いが溢れる珠玉のドキュメンタリーである。