選択と誘導の認知科学 日本認知科学会監修「認知科学のススメ」
著 者:山田歩著 内村直之ファシリテータ 植田一博アドバイザ
出版社:新曜社
ISBN13:9784788516182

選択と誘導の認知科学 日本認知科学会監修「認知科学のススメ」

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

笹川美季 / 府中市立図書館(東京都),日本図書館協会認定司書第2012号
週刊読書人2020年9月11日号(3356号)


 私たちは外界の情報を,五感を使って収集・処理をし,常に何らかの「選択」をしながら生活をしている。電車の座席に座る時,買い物をする時,貼り紙や広告を目にした後の行動や目的地へのコース選択。その選択の背景には,心理学だけでなく,文化人類学,身体運動科学,哲学等,幅広い分野を含んださまざまなメカニズムが存在する。

 この背景にあるメカニズムを研究するのが「認知科学」という学問だ。本書は一般の学術書籍と違い,サイエンスライターがファシリテータとなり,研究者と協同して執筆するというスタイルをとっている。認知科学になじみのない人や,これから学ぼうとする人も十分に楽しめる構成だ。

 内容は大きく二つのパートに分かれ,前半は人の選択への働きかけについて書かれている。ここでは例えばマナー喚起の貼り紙等について,それを目にした時の受け手の反応プロセスを示しながら,なぜそれが思ったほどの効果を生まないのか,どのような働きかけが効果的なのか等を解説する。

 後半は,人の「選択」が意識下でどのようなプロセスでなされるかを解説する。興味深いのは,本人が「こういう理由で選択した」と認識するプロセスと,実際の選択プロセスとの間に生じる「ズレ」の存在だ。人は案外,自分の意思に従って選択ができていない。自覚する価値観とは別に,日頃の自分の言動を見直す必要を提起される。

 学問は,物事や世界への興味から始まる。本書の執筆者たちの根底には,人への強い興味と関心がある。人の行動のパターンがどこから生じるか,どう変化していくかに興味を持った研究者たちが,自らの研究成果をもって「人はこんなにも面白い」ということを,あの手この手を使ってとても楽しそうに,この本で私たちに示してくれている。