友情 平尾誠二と山中伸弥「最後の一年」
著 者:山中伸弥,平尾誠二,平尾惠子
出版社:講談社
ISBN13:978-4-06-220827-7

友情 平尾誠二と山中伸弥「最後の一年」

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

土橋真紀 / 和歌山県立和歌山北高等学校西校舎
週刊読書人2020年10月9日号(3360号)


 ラグビーワールドカップで,いわゆる“にわかファン”となった私は,今まで目に留めなかった本を手に取るようになった。この本もその一つだ。

 著者は,ノーベル生理学・医学賞受賞の山中伸弥氏およびラグビー界の永遠のヒーロー平尾誠二氏とその夫人である。ページをめくると止まらない,一気に読んでしまった。彼らの共通点は年齢が同じでラグビー経験があるということだけ。40歳半ばを過ぎて出会い,そのわずか6年後には辛い別れとなる。この本には,短くも濃密なかけがえのないふたりの時間が綴られている。駆け引き無しにゴルフを楽しんだこと,おいしいお酒でリーダー論を語り合ったこと,家族ぐるみで交流を重ねたこと…そして平尾氏のガン告知と闘病の日々。そこにはお互いを思うがゆえの苦悩と優しさがあふれ,逆らえない運命と共に向き合いながらも決してあきらめない強さがあり,涙で幾度も文字が滲んだ。

 「友情」とは,青春を共に過ごした者たち,苦労を分ち合った者たちのなかで育まれるものだと漠然と考えていた私である。しかし,ふたりの「友情」はどうだろう。「One for all, All for one」の精神がふたりの距離を急速に縮めたのだろうか。世界を見据え,信念を持ってそれぞれの道を切り開いてきたふたりだからこそ,互いをリスペクトして一瞬に通じ合えるものがあったのだろうか。わずかな時間であっても,鎧を脱いで少年のように語り合うこと,深く理解し合うこと,どんなときでも大切に思い合うことができるものを「友情」と呼ぶのかもしれない。純粋さと誠実さに満ちあふれたふたりの魂は,いつまでもどこまでもつながっているように思えてならない。

 新しい令和の時代も,固い絆で結ばれる「友情」が育まれ広がることを願ってこの一冊をおすすめしたい。