本のリストの本
著 者:南陀楼綾繁/書物蔵/鈴木潤/林哲夫/正木香子
出版社:創元社
ISBN13:978-4-422-93086-2

新たな知見は、常にリストからひろがる

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

大川正人 / TRC電算室
週刊読書人2020年10月23日号


 本書は五人のライターが「本のリスト」を題にとった小文をまとめた一冊。テーマが「本のリスト」であるというだけで、本書のために著者が新たに編んだリストもあれば、実際の文献から引いたリストもあれば、著者の収書リストに近いものもあるというような、良く言えば鷹揚な、悪く言えばいささか雑駁な印象を受けます。ただ裏を返せば、雑本を好むかたには心が弾む、知的欲求がくすぐられること間違いのない本です。同社の先行企画『本の虫の本』で、読書家・蔵書家・出版業界の独特の用語について徒然に語ったやりかたから、そのアプローチは首尾一貫したものでしょう。

 わたしは偏狭なジャンル読者で、自分の好みで読む本とは別に「オールタイムベスト」「必読書」などと冠されるリストの消化にそれなりの時間を割いてきました。そう堅苦しく言うと、いささか教養主義的に受け取られてしまうきらいもありますが、新たな見識のリストに直面してしまうと頭に詰め込まずにはいられないというのが正直なところです。本書のリストの中にも関心のある書名はいくつか出てきて、そのリストはもちろん調べなければ落ち着けません。また「本のリスト」には創作としてのリスト、というものがあるのも面白い。本書の「実在しなかった本たち」の章では、架空の本のリストや、刊行予定に留まった(実在しない)本のリストが取り上げられています。後者の類例では、小説の分野では架空のアンソロジーや架空の文学全集を編む企画というのがよくあって、わたしは見ずにはいられません。そしてこういったリストを調べる過程で、次のリストを探し当てることにもなるのです。

 至極当たり前のことを言えば、「本のリスト」はそれ自体が独立したシソーラスで、リストを消化することで体系的な知識が蓄えられるし見識が広がります。ですから幼いころからどれだけ優れた、あるいは特徴的なリストを自家薬籠にしてきたかが肝要です。図書館で扱われる「本のリスト」というと、専門図書館であればその所蔵方針自体がそうであるのは論をまたないところですが、街の図書館であれば、企画展示や特集棚、児童・生徒のための〈ブックリスト〉がその役割を果たします。企画展示への反応というのは、例えば貸出点数から推し量るくらいしかないのかもしれませんが、誰かひとりの心にでも響くのであれば素晴らしい。リストを作り、またいつどのようなリストを作ったか記録を残していくことで、次代の知見をひろげることができるはずです。わたし自身の経験でいえば、携わったリストが少なからず誰かの読書の助けになったと知ったときには、また実際に活用しているという学生と会話したときには、不思議な感慨がありました。

 とにかく「本のリスト」という、書名の羅列だけから発現する面白さを再認するには恰好の一冊です。読んだあとには、書店で今まで通ったことのない棚の前を歩いてみることをおすすめします。