「バカ」の研究
著 者:ジャン=フランソワ・マルミオン(編)
出版社:亜紀書房
ISBN13:978-4-7505-1650-9

気付いていますか? あなたの中の「バカ」

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

桑山大介 / TRC仕入部
週刊読書人2020年10月23日号


 一冊の本で、これほど「バカ」という単語を使っている本は他にない(目次だけでも19回登場している)。どれほど罵詈雑言を口にしたとしても、ここまで「バカ」を使う人もいないだろう。もちろん、この本では罵詈雑言として使用されているわけではないのだが。

 本書は、学者や様々な分野で活躍する知性ある人々が、「バカ」について論じた、書名通り「バカ」の研究書である。日常で誰もが見かけている「バカ」、職場に必ずいる「バカ」、歴史に名を遺した有名な「バカ」、現在進行形で世界に悪影響を与えている権力を持った「バカ」等々…。各著者が、様々な方面でのバカを事例に、どういう行動がバカとされるのか、なぜバカが生まれてしまうのかなどについて持論を述べている。

 共通して多いのが、知性とバカが反比例するとは限らないという点であり、誰しもがバカになり得るという考えである。知性ある執筆者たちはみな、自分がバカである可能性を認識している。そして、「バカは自分がバカであることに気付かない」という考えも述べられている。つまり、自らのバカを認識しない限り、バカはバカであるが故にバカなまま堂々巡りをし続ける羽目になるということだ。痛快すぎるほどに辛辣である。

 だが、この書籍はバカを嘲笑うためのものではない(そんな読み方をすればバカと呼ばれることだろう)。先述しているように、誰しもがバカになる可能性を秘めている。昨今のネット、特にSNSでの炎上騒ぎが良い例だろう。信じられない失言、あり得ない誤読、炎上した人間に対する罵詈雑言等々、折り重なるようにバカのミルフィーユが作られている。そこには、一部の特異な人間だけではなく、名と社会的地位のある有識者がいることも決して少なくはない。誰しもがウィルス感染のように、等しくバカになる恐れがあるということだ。

 感染というよりはむしろ、誰もが自分の中にバカを抱えているということなのかもしれない。その事を認識し、いかにして抑え込むかを考えなければならないのだろう。「性善説」でも「性悪説」でもない「性バカ説」である。ここで書かれているバカは、私でもあり、あなたでもあるのだ。

 この本を読んで、バカは自分の振る舞いを反省するだろうか? それとも潜在的に存在している「バカ予備軍」が救われるのだろうか? いずれにせよ、バカのメビウスの輪に連なっていることに変わりはない。