砂と人類 いかにして砂が文明を変容させたか
著 者:ヴィンス・バイザー
出版社:草思社
ISBN13:978-4-7942-2444-6

The World in a Grain(原題)
「ひと粒の砂に世界を見る」

図書館発!こんな本が面白い【書評提供:図書館流通センター(TRC)】

大河内元 / TRCライブラリー・アカデミー
週刊読書人2020年10月23日号


「砂」と聞いて、みなさんは何を思い浮かべるだろうか? 真夏の太陽、白いビーチ、波打ちぎわに砂の城。あるいは、月夜の砂ばくにラクダのシルエット。月といえば、テレビでみた月面も、水が無くて砂漠のようだったな。そんな連想がはたらくかもしれない。ためしに、手元の辞書で「砂」を引いてみると、「こまかい石の粒」とある(『三省堂国語辞典』第七版)。直径1ミリ程度の小さな粒であり、だれでも知っている、むしろふだんは意識さえしない物質である。「砂をかむよう」といえば、無味乾燥で少しもおもしろくないことをあらわし、「砂上の楼閣」は、基礎がもろくて長続きしないことのたとえだ。

 ところが、本書によって解き明かされるのは、現代文明がこの小さな砂のうえに成り立っているという事実である。人類は砂に依存している。著者は砂を「軍隊」になぞらえる。「無数の小さな兵士からなる巨大な軍隊のようなもの」が、コンクリートやアスファルト、ガラスなどに形を変え、われわれの暮らしを支えている。足元の床も、頭上の天井も、窓のガラスも、窓の外に見える道路もビルも、そして、いまやわれわれが手放すことのできないスマートフォンやコンピューターさえも、すべて「砂」なくしては存在しえない。

 コンクリートを最初に活用したのは古代ローマ人だが、その製法をどうやって見つけたのかは、わかっていない。しかし、彼らはコンクリートのひびに水が入るともろくなることを知っており、さらに、馬の毛や動物の血液を混ぜると強度が増すことを発見したという。古代ローマ人はそうやって改良を重ね、コロセウムや道路、橋、住居などをコンクリートでつくり、壮大な帝国を建設した。やがてローマ帝国が滅びた後、コンクリートの存在はながらく忘れられていたが、18世紀にイギリスで復活する。そして、人々の熱意により、建築手法の主流となっていく。現在、世界中で高層ビルが建ち、舗装道路が縦横無尽に張り巡らされ、都市が成長しているのは、ご存知のとおりだ。

 ガラスもまた、「単なる溶けた砂」である。ガラスは顕微鏡や望遠鏡のレンズとなり、人類は微細なウイルスの存在を知り、また宇宙への夢を現実のものとする。さらに、デジタル社会を支えるコンピューターチップや光ファイバーケーブルも、砂から生まれる。高純度の二酸化ケイ素は、ごくわずかな鉱物資源であるが、そのはたらきははかり知れない。まさに「砂の兵士」なのだ。

 著者は「ニューヨーク・タイムズ」紙をはじめとする新聞や雑誌に寄稿するジャーナリストである。本書は、ていねいな取材をもとに、膨大な量の砂が、どのように消費されてきたのかをわかりやすい言葉でつづっていく。砂に関わる人々の姿が浮きぼりになっていくさまは、読みものとして十分に楽しむことができる。訳者あとがきにあるように、本書は「砂を通して見た、人間の欲望と消費の文化史」であり、単なる環境問題の啓発書などではなく、原題のとおり「ひと粒の砂に世界を見る」体験の一冊である。